パソコン: 参入直後にノート機で4番手に

 パソコンは,Hon HaiグループがEMSを始めるきっかけを与えた事業であり,現在も売上高の半分ほどを稼ぎ出す事業である注2)。ただ,2008年までノート・パソコンの製造受託市場はQuanta社,台湾Compal Electronics, Inc.(仁寶),台湾Wistron Corp.(緯創),台湾Inventec Corp.(英業達)が長らく寡占していた。そこにHon Haiグループが2009年に参入した注3)

注2) Hon Hai社は,1996年に旧Compaq社へデスクトップ・パソコンの筐体を供給し始めた。この輸送の空間利用効率が低いことに気付いたHon Hai社は,部品を同梱した。同梱した部品は,船で運搬中の値下がりが小さい部品である。DRAMやHDD,マイクロプロセサなどは除いた。同梱部品の多くは中国や台湾で製造していたので,顧客は個別に部品を集める手間が不要になった。間もなくHon Hai社は,同梱部品をプリント基板に実装した後(EMSを実施してから)に配送するようにした。顧客が出荷直前に,そのときまで値下がりしたDRAMやHDDなどを組み込めるようにするためだ。Hon Hai社が発送するモジュールは後に,ベアボーンと呼ばれるようになった。

注3) Flextronics社もほぼ同じ時期にArima(華宇)社のノート・パソコン事業を買収して参入した。2010年の生産台数は700万台程度とみられる。

 Hon Haiグループのノート・パソコンの生産台数は,部品メーカーによると,2010年に1500万台前後に達する。不動の業界4位だったInventec社をいきなり超えたことになる。2011年は倍増の3000万台を狙っている。同グループの顧客は台湾ASUSTeK Computer Inc.,米Dell Inc.,HP社,ソニーなどである。Dell社の薄型ノート「Adamo」の設計も手掛けた。

 Hon Haiグループの強みは,受託価格の安さだ。「我々なら到底,それでは利益を出せない」と,競合するEMS/ODM企業は証言している。安さの秘訣は主に二つある。

 一つは,情報に基づく集中購買。「Hon Haiグループはコネクタなどの部品を競合他社に納めている。この納入状況と各機種の分解によって競合他社が使う部品の種類と購買量を把握し,その上で特定品種を集中購買することで価格を下げているようだ」(パソコン・メーカーの調達担当者)。

 もう一つは,筐体などの内製部品の原価が他事業における量産効果と設計上の工夫によって,他社品より「2割は安い」(Hon Haiグループの社員)こと。これは,同グループが「勝利の方程式」を使えることを意味する。

 すなわち,内製部品の低い原価が組み立て作業で生じるコストを吸収するので,そのコストが受託価格を引き上げない。言い換えれば,Hon Haiグループの利益の源泉は,筐体や金型といった組み立て作業の前段階にある(図5)。同グループは,このビジネスモデルによって過去,多数のEMS企業を存亡の危機に追いやった。

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図5 ノート・パソコンで「勝利の方程式」を発動
Hon Hai社のノート・パソコン事業が立ち上がった理由の一つは,過去の成功パターンを踏襲したこと。人材採用も出荷増に貢献している。

 Hon Haiグループは,人脈や人材も強みとしている。具体的には,Quanta社からHP社とDell社の機種をそれぞれ担当していた従業員を引き抜いた。Dell社関連では「一つのチームごとHon Hai社に移った」(部品メーカーの営業担当者)という。

携帯電話機/タブレット端末: Android機でトップシェアに

 Hon Haiグループでは,傘下の香港Foxconn International Holdings Ltd.(FIH,富士康國際)や2005年に買収したChi Mei Communication Systems Inc.(CMCS,奇美通訊)が,米Google Inc.のソフトウエア基盤「Android」を用いた機種を設計・製造している。

 Hon HaiグループがAndroid対応のスマートフォン/タブレット端末の受託生産台数で2011年にトップになることは,ほぼ間違いない。これによって,フィンランドNokia Corp.とMotorola社の発注が減っているという課題は克服されるだろう。Android搭載スマートフォンでは最近,シャープが顧客になった。シャープは,中国向け機種を複数委託している。タブレット端末ではDell社,台湾系の米ViewSonic Corp.,ソニーなどが顧客だ。

 Hon HaiグループがAndroid機の注文を獲得できる理由は,台湾HTC Corp.(宏達)が隆盛した理由と似ている。グループ企業のCMCS社が「Windows Mobile」を苦労して商品に適用してきた。これによって得たソフトウエア・テストの能力がAndroid機で開花したというわけだ。  実際,CMCS社は台湾の携帯電話事業者に対してAndroid機を実質的に直接納入している注4)。ブランド・メーカーが通常実施すべき品質試験は省かれた(図6)。この他,親会社のHon Hai社は,次世代のiPhoneとiPadの製造を請け負う見込みである。

注4) 「実質的に」と記したのは,Commtiva Technology社が納入した機種があるためだ。同社はHon Haiグループに属さず,CMCS社の開発物を変更することもある。しかし,Commtiva Technology社は「CMCS社の支援があって初めて商品を世に出せる小規模な企業」(Hon Haiグループの元社員)である。

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図6 ブランド・メーカーの品質試験を不要に
Hon Haiグループの携帯電話機部門は,ソフトウエア開発力の向上を背景に,Android端末を台湾などの携帯電話事業者に実質的に直接納入している。図中の機種は一部であり,実績で他社を引き離している。