今を時めくApple社は,どんなEMS/ODM企業でも選べる立場にある。それにも関わらず,Apple社とHon Haiグループのつながりは,ライバルのEMS/ODM企業が「Hon HaiなくしてAppleなし」と評するほど強固だ。その理由は,三つある。
第1は,Apple社が求める技術力や財力を有していること。Apple社の要求は時に,「iPhone 4」の前面と背面のガラスに挟まれた縁部分や「iPad」における背面の筐体を金属の削り出しで造るという「非常識」(日本の工作機械メーカー)なものである。Apple社が筐体に継ぎ目やプレス加工の跡ができることを認めないので,「削り出すしかなかった」(Hon Haiグループの社員)。
このためHon Haiグループは,ファナックから1万台もの小型マシニング・センタを買い付けて量産適用した。「そこまでしてあの外観デザインを実現すべきなのか疑問も残るが,同じことをできる企業は我々だけなので,ビジネス上は合理的な判断だったと思っている」(前出の社員)。
Hon Haiが顧客を選ぶ
第2の理由は,Hon Hai社の創業経営者で,CEOであるTerry Gou(郭台銘)氏が,並外れた情熱を持ってApple社から受注を獲得していることである(図3)。それは,実弟が経営する台湾Cheng Uei Precision Industry Co., Ltd.(正,通称Foxlink)でさえビジネス上はライバルと見なしている点によく表れている。
Hon Haiグループの元社員は証言する。「Cheng Uei社がApple社からアクセサリー類の注文を得ていることを米国カリフォルニアに出張中に知った郭氏は,上級幹部のSindy Lu(盧松青)氏を即刻台湾から呼び寄せた。そして注文を奪うまで帰ってくるなと厳命。廬氏は3週間でやり遂げた」。
第3の理由は,調達担当者との人脈があること。例えば,「米Motorola, Inc.でHon Haiグループに注文を出していた人々がApple社に転職している」(前出の元社員)。Apple社首脳の評価も高い。タワー型パソコン「Power Mac G5」(2003年発売)のAl合金製筐体や,「iPod」における紫外線硬化性樹脂のコーティングといった技術的に困難な製造を,Hon Haiグループが成功させたためだ。
Hon Haiグループは,民生機器メーカーにとって,できることなら設計・製造を委託したい企業に成長している(図4)。以下ではその詳細を,パソコンやテレビといった事業分野ごとに見ていく。その中には,測定器や自動車部品といった新事業も含まれている(表1)。その後,機器メーカーが巨大なEMS/ODM企業とより良い取引関係を築くためのポイントを述べたい。