売上高8兆円,社員100万人

 Hon Haiグループにおける2010年は,困難と大躍進の年と言える。前者に関しては,12人の従業員が中国で自殺したことが世界中のメディアによって報道された。同グループは記者会見を実施したり,大幅な賃上げをしたりすることで「血汗工場(労働条件が劣悪な工場)」という風評を抑える必要に迫られた注 1)

注1) 大幅な賃上げの狙いは,他に二つありそうだ。一つは,労働者不足によって納期遅延や失注を起こさないようにすること。もう一つは,中国政府に圧力をかけること。賃上げは,Hon Haiグループ以外において労働者がストライキを起こす理由となる。それを望まない中国政府が「過剰な報道を止めるようにメディアを指導したとしても,何ら不思議はない」(民生機器メーカーの経営企画担当者)。

 その一方で,2010年の連結売上高は,前年よりも40%以上多い約2兆8000億元(7兆9000億円)に達する見込みだ(図2)。グループ全体の社員数は,ついに100万人を突破したと目されている。EMS/ODM業界で第2位の台湾Quanta Computer Inc.(廣達)よりも売上高で約2.5倍,社員数で約10倍多いことになる。

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図2 ますます巨大化
Hon Haiグループにおける円換算での売上高は,円高の進行にもかかわらず8兆円ほどに達しそうだ。(a)は威志市場研究,(c)はMorgan Stanley社の予想。ソニーとFlextronics社の決算は3月締め,他は12月締め。

 社員数が特に多いのは,筐体やコネクタ,それらの製造に用いる金型といった部品をグループ内で設計・製造しているためだ。中でも,金型に関わる社員数は約3万人と,日本の常識からは信じられないような規模を誇っている。なお,2010年の営業利益率は,低下傾向ながらも3%ほどを確保する見込みだ。

 ここまで会社が巨大化した最大の直接的理由は,米Apple Inc.という優良顧客に恵まれたことである。同社のノート・パソコン(Quanta社が受託)や2011年初頭に発売されるCDMA 2000版「iPhone」(台湾Pegatron Corp.(和碩)が受託)を除くほとんどのハードウエアを,Hon Haiグループが製造している。Apple社がもたらす売上高は,間もなく米Hewlett Packard Co.(HP社)のそれを抜きそうだ。既に,全社売上高の20%を超えたとの報告もある(図2(c))。