中国・上海。日系百貨店「伊勢丹」の跡地に2010年11月17日,欧州の大型家電量販店「Media Markt(メディア・マルクト)」の中国第1号店がオープンした。この店は中国では珍しく,メーカーごとのブースを構えていない。このため,日本の量販店のように,簡単に商品を比較できる。しかも,値段が安めとあって人気である(図1)。
消費者にとっては喜ばしい限りの店舗の登場だが,民生機器メーカーは複雑な思いを抱いている。なぜなら,中国におけるMedia Marktは,世界最強のEMS/ODM企業である台湾Hon Hai Precision Industry Co., Ltd.(鴻海,通称Foxconn)のグループ企業が運営しているからだ。
もし中国でMedia Marktが大きく成長すれば,民生機器メーカーは機器の設計や製造ばかりか,販売もHon Haiグループ任せになってしまう。しかも同グループは,かつての「ナショナルショップ」を思い起こさせる,地域密着や修理をウリにした小売店なども展開し始めている。
これは,民生機器メーカーが担う業務がどんどん減ってしまうことを意味する。「将来的に機器メーカーは,台湾Acer Inc.(宏碁)のように,EMS/ODM企業と卸売業者をつなぐ商社業務に特化せざるを得なくなるかもしれない」と,ある民生機器メーカーの調達担当者は不安を隠さない1)。
参考文献
1) 大槻,「ノートPC首位目前,Acer社はなぜ強い」,『日経エレクトロニクス』,2009年12月28日号,no.1020,pp83—88.
Hon Haiグループは,こうした民生機器メーカーの危惧を知りながら小売事業を拡大させている。なぜなら,消費動向のフィードバックを直接受けることによって,同業他社には不可能な水準にまで在庫や生産リードタイムを削減できる可能性があるからだ。Hon Haiグループの優位点である「速い,安い,うまい」サービスが一層充実することになる 2)。そうなれば「Hon Haiグループ以外の選択肢を採れなくなる」(民生機器メーカーの経営企画担当者)。
参考文献
2) 大槻ほか,「鴻海は敵か味方か」,同上,2006年7月31日号,no.931,pp.87—116.