iPad2に対する第一印象は、初代からの「堅実な正常進化」だった。

 あくまでもイメージではあるが、過去の「iPhone」の例で言うと、3Gから3GSへのアップデート時に近い。奇をてらわず、製品としての競争力を向上させたという印象。ただ、個人的にがっかりしたのは、「Retina」ディスプレイを採用しなかったことだ。他社のタブレット製品との価格競争を考えると見送らざるを得なかったのかも知れない。

 そんな中、ハードウエア上の最も大きな変化として挙げられるのは、前面と背面にカメラが搭載された点だろう。しかしこれらは、「撮影」用途というよりはビデオ通話アプリ「FaceTime」やARアプリでの利用が主となりそうに思われる。いくら初代より軽くなったとはいえ、iPad2はいまだ600g超の重さがある。しかも薄く(8.8mm!)て滑りやすい。このようなデバイスを捧げ持って写真や動画を撮影しているシーンが私にはうまく想像できない、というのがその理由だ。もし今後、タブレットのカメラ機能をめぐって、過去に携帯電話機やコンパクト型デジタル・カメラで見られたような画素数競争が起きるとしたら滑稽に思う。

 近々国内でのリリースが予定されているタブレット製品としては、米Motorola Mobility, Inc.の「XOOM」(KDDIがリリース予定)や韓国LG Electronics社の「Optimus Pad」〔NTTドコモがリリース予定、ともにAndroid 3.0(開発コード名:Honeycomb)搭載〕が挙げられる。これらライバルとの間にスペック上の優劣はそれぞれあるが、iPad2の最大の利点は、iOSの経験があるユーザーならほとんど何も考えずそのまま使えてしまうところだ。つまり、アプリなどの目に見える資産に加えて「経験」という資産も継承できる。さらにこの資産の利用可能範囲は、iOSに止まらず、ことしの夏以降にリリースが予定されている新OS「MacOS X Lion」にも広がっていく。逆にAndroid 3.0は多くの人がまだ経験しておらず、Android 2.xと比べてユーザー・インタフェースが大きく変更され、これまでのAndroid経験者も新しい作法を再び学習していく必要がある。ユーザーへの影響の大小については、機会があれば弊社でもユーザビリティ・テストなどで検証してみたい。

 最後に、もしiPad2の実機をレビューする機会があったら、是非ミラーリング機能を試してみたい。アプリを限定しないほぼ完全なミラーリングは、現状、iPad2でしか利用できないことになっており、他のiOSデバイスと比べたときの大きな差別化ポイントになりうる。この機能によって、他者に説明やプレゼンテーションを行うユーザーの利用シーンにおけるiPadの有用性が大きく向上し、企業や教育機関などへの導入に一層の拍車がかかるのではないかと想像される。

 私事ではあるが、iOS新製品が発表されると、直後のOSアップデートとキラーアプリのリリースがまずは楽しみだ。今回は何と言っても音楽制作・演奏ソフト「GarageBand」。とりあえず、3/11のOS4.3アップデートが待ち遠しい。

原田 養正
U’eyes Design 第2UCDグループ
株式会社U'eyes Designにて,UI設計やユーザビリティ評価などを手掛ける。 HCD-Net認定 人間中心設計専門家。