「Xperia PLAY」の外見は,噂通りソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)の携帯型ゲーム機「PSP go」を髣髴とさせる筐体だった。だが,Xperia PLAYはあくまで「ゲーム・パッドを備えたAndroidスマートフォン」,つまり携帯電話機であり,携帯ゲーム機ではない。私は,Xperia PLAYが数量に重きを置いた製品,というよりはあくまでも「PlayStation(PS)というリッチなゲーム・プラットフォームがAndroidにやってきた」ことのシンボル的存在としての製品ではないかと感じた。

 ここでのプラットフォームとは,PS Suite(PSS)である。PSSについては,Androidのエンタテインメントにおける存在感を引き上げるという意味で,米Google社にとって強力な支援になる。Android 2.3の開発環境にLRボタンなどゲーム・パッド用のインタフェースが組み込まれていることからも,両者の連携ぶりをうかがうことができる。

 では,Xperia PLAYを「モノ」として見るとどうか。私はターゲットがいまひとつ不明であると感じる。着信などによってプレイ中のゲームが中断されるだろうから,ゲーム好きの,いわゆる「コア・ゲーマー」向けではない。一方,カジュアルにゲームを楽しむ「ライト・ゲーマー」なら,内蔵コントローラーは必要ない。こうした点を考慮すると,ターゲットを絞った製品というよりリファレンス機として位置付けるのが正しいのではないかと思う。

 Xperia PLAYがあくまで携帯電話機とはいえ,「ゲーム機」としてどの程度遊べるかはやはり気になる。初代のPSゲームといえば,一昔前はリッチなエンタテインメントの代表だった。
 
 携帯電話機でのゲーム・プレイ時に気になるのは,通話やメール着信時の挙動である。特にWi-FiやBluetooth,3G通信を利用した対戦時に大きな問題となる可能性がある。

 私の経験では,iPhone上で,対戦格闘ゲーム「ストリートファイター IV」をBluetoothを使って対戦中,SMSの着信によって何度もゲームが突然切断され,決着しなかったことがある。このときは,「ま,所詮はケータイ・ゲームだし」と考え,無理矢理割り切ることにしたが,Xperia PLAYの筐体デザインはゲーム機に寄りすぎている。その分,ゲーム機能への期待(場合によっては失望)も,他の端末より大きいと考えられる。ユーザー視点から電子機器の評価をする我々(U’eyes Design)としては,機会があればこのあたりのユーザー・エクスペリエンス(UX)を検証したい。

 いずれにせよ,PSSやXperia PLAYなどの登場により,初めてPSの世界に触れるライト・ゲーマーをコア・ゲーマーに引き上げる効果は期待できる。ただし,それはXperia PLAYという端末によって引き起こされる,というよりはPSSが寄与するところが大きいだろう。

 本稿の最後に,現状の公開情報からは不明だが,気になる点をいくつか箇条書きで列挙したい。

・PSSの仕組み
 PSSのコンテンツは初代PSのゲームがまずは中心で,今後PSS用ゲームも充実させていくということだが,少なくともAndroidというオープンな世界におけるプラットフォームの成功のためには個人も含めたデベロッパーの囲い込み,参入障壁の低さ,(無料も含めた)課金システムとデベロッパーにとっての利点がPSS成功の鍵を握るだろう。
 開発者のすそ野を広げて成功した代表例は,米Apple社の「iOS」と「AppStore」である。筆者にとっては,Xperia PLAYという端末そのものよりも,ゲームという豊富な既存コンテンツを武器に,Xperia PLAYというハードウエアと,PSSというプラットフォームを切り分けたソニー・グループ(とそれを利用するGoogle社)の戦略の成否に興味を持っている。

・Xperia PLAYのコントローラーの用途
 ゲーム以外,例えばWebページの閲覧やその他アプリケーション用途でのコントローラーの使い道はあるのかどうかを気にしている。

・他メーカーの今後の動き
 Samsung Electronics社やHTC社といった他メーカーから,PSコントローラー内蔵の端末が多数発売されるとは考えにくい。こうした他メーカーが,どのようにしてPSSと付き合っていく(利用していく)のか,気になるところである。また,合わせて,携帯端末メーカー向けに始めるライセンス・プログラム「PlayStation Certified」の動向にも注目したい。

原田 養正
U’eyes Design 第2UCDグループ
株式会社U'eyes Designにて,UI設計やユーザビリティ評価などを手掛ける。 HCD-Net認定 人間中心設計専門家。