鈴木はさまざまな種類のステンレス素材を手に入れ,塩水を噴霧した試験層内で,その劣化度合いを調べた。ただ,どこまで耐久性を高めればよいのか,見当が付かなかった。水中で使える分,日常生活防水の従来機種よりも耐久性が必要になるのは明白だった。しかし,どの程度必要かが分からない。鈴木らは品質管理部門と議論を重ねながら,手探りで目標とする耐久性の値を決めていった。

 その結果,想定していたヒンジでは軸の太さが足りないことが分かってきた。しかし,耐久性を高めるために軸を太くすると,外観デザインが変わってしまう。液晶モニターを閉じると,本体側と高さがそろわず,モニター部分が少し出っ張ってしまうのだ。これにはデザイン部門が大反対した。

 坂地は,「完全防水モデルでは,デザインよりも耐久性を優先させてほしい」と説得した。完全防水だからといって,壊れやすくてはユーザーにそっぽを向かれる。そもそも,「どこでも気軽に撮影できる」というXactiの基本コンセプトに反することになる。坂地は繰り返し説得を続け,何とかデザイン変更を認めてもらった。

色の変わるシートで浸水を検知

防水パッキンは筐体に沿った立体的な形状をしており, 断面はU字形である。

 防水パッキンにも,ノウハウが詰まっている。例えば,鈴木らはパッキンの断面形状を円形からU字形に変更した。断面が円形の場合は,筐体をネジ留めした際にパッキンの反発力によって筐体が部分的に浮き上がり,浸水を起こす問題があった。断面がU字形のパッキンを使うと,こうした問題が起こらない。鈴木らが前作の生活防水モデルで培ったノウハウでもあった。完全防水モデルではさらに,パッキン全体の形状を,筐体の溝に沿った立体的なものに変え,より密着性を高めた。

 防水性のテストには,水を吸うと変色するシートを利用した。これは,携帯電話機の内部に張られているシートを流用した。携帯電話機では,誤って水中に落としたことを報告せずに新品交換を求めるユーザーへの対策として,こうしたシートが使われている。鈴木はこのシートを試作機の内部に張り付け,水中に沈めた。仕様では1.5m防水だったため,試験ではより深く沈めて高い水圧をかけた。

 この手法は確かに有効だったが,浸水を発見すると同時に機器が壊れてしまうため,頻繁に行うことは難しかった。そこで,並行してエアー・リーク試験と呼ぶ手法も取り入れた。マイク部品のように空気を通す部分から吸引して筐体内部を減圧状態にする試験法である。パッキンなどにすき間があると,筐体内部はすぐ大気圧に戻ってしまう。鈴木はすき間が生じていそうな場所に粘土を張り付けながらこの試験を繰り返し,浸水個所を特定していった。

 パッキンを密着させる溝の寸法精度も重要だった。鈴木はパッキンのつぶしシロを0.1mm単位で修正しながら,浸水が起きない寸法を見いだした。そのための金型変更は,10数回にも及んだという。