前編より続く

 2005年に入社した坂地亮(現・デジタルシステムカンパニー DI事業部 DI企画部 DI企画課)は,入社後の研修でXactiの当時の最新機種である「DMX-C5」を手渡された。それを肌身離さず持ち歩き,自社製品について勉強するようにという趣旨だった。

「防水カバーでいいじゃないか」

三洋電機 デジタルシステムカンパニー DI事業部 DI企画部 DI企画課の坂 地亮氏(左)と,同事業部 設計一部 機構設計課 担当課長の鈴木茂樹氏(右)。

 折しも季節は初夏。坂地は学生時代の友人と渓流沿いでバーベキューをしながら,真新しいC5を見せびらかした。その際に何度も,C5を水の中に落としそうになったという。この経験から,防水モデルができないかと思い付く。Xactiのユーザー・アンケートで防水機能を求める声が多かったことも後押しになった。坂地は2005年9月に,商品企画会議で防水モデルの開発を提案する。

 「ちょっと待った」。坂地の提案にかみ付いたのは,Xactiの機構設計を手掛けてきた鈴木茂樹(現・デジタルシステムカンパニー DI事業部 設計一部 機構設計課 担当課長)だった。長方形のデジタル・カメラなら可動部が少ないので,全体を覆うように防水の筐体を作ればよい。しかし,Xactiは液晶モニターが2軸のヒンジで動くので,そこから水が浸入してしまう危険性がある。鈴木は防水モデルの難しさを次から次に並べ挙げた。

 しかし,坂地は引き下がらなかった。Xactiは常に持ち歩けるのがウリのはずなのに,水辺で使えないのは,どうしても納得がいかなかったからだ。しつこく食い下がる坂地に,鈴木は冗談交じりにこう言った。「本体を今よりも小さくしてやるから,防水カバーをかぶせればいいじゃないか。その方が絶対に安くできるよ」─。確かに,そうかもしれなかった。でも,防水カバーをいつも持ち歩くなんて面倒だ。坂地は,Xactiの形のままで防水にしなければ意味がないと主張した。

 結局,完全防水ではなく,生活防水なら何とかできるかもしれないという折衷案が出た。完全防水と生活防水は,技術的には雲泥の差がある。完全防水は水の中に沈めても使えることを意味するので水圧がかかり,高い防水性能が求められる。一方,生活防水は,水がかかっても使えるという水準であり,技術的な難易度はそれほど高くないと予想された。

ヒンジを1軸に変更

 生活防水モデルの開発に着手した鈴木が最も気にしたのは,液晶モニターのヒンジ部分だった。ここには,モニターを動かすたびに力が加わる。その力によってパッキンの密閉状態が変われば,水が染み込む可能性があった。検討した結果,鈴木はヒンジの構造を2軸から1軸に変えてほしいと商品企画に訴える。2軸にすると強度的に不利になり,配線も難しくなるからだ。議論の末,2軸で防水モデルをあきらめるよりは,1軸でもいいから商品化を急ごうということになった。