前編より続く

 2002年5月,壽の肝いりで横断化プロジェクトが始まった。テーマとして選ばれた商品には,ムービー以外にも,有機ELテレビや液晶プロジェクターなどがあった。ムービーのプロジェクト・リーダーは重田が務めた。リーダーを任された重田は,PCムービーを念頭に置きながらも,それにはとらわれない新しい商品作りを目指すことを決める。そこで,新商品に「ラベンダー」という開発コード名を新たに付けた。

ビデオ・カメラのあるべき姿

 ラベンダー・プロジェクトのメンバーには塩路や春木のほか,分野の異なる人材を多数加え,さまざまな意見を取り入れた。塩路が考えていた「お母さんカメラ」というコンセプトも意識し,女性を3人加えた。一方,デジタル・カメラに詳しい機器設計者はメンバーからあえて外すことにした。実現手段にとらわれすぎると,斬新な発想が生まれなくなると考えたからだ。

左が,三洋電機 デジタルシステムカンパニー DI事業部 技術部 部長の春木 俊宣氏,右が,同事業部 設計一部 回路設計課 担当課長の高橋聖夫氏。

 重田らはまず,新しいビデオ・カメラのあるべき姿を探るために,既存のビデオ・カメラの問題点を抽出した。「重い」「大きい」「構えが疲れる」「テープ媒体では上書きしてしまう危険性がある」などだ。こういった議論では,過去にビデオ・カメラ事業にかかわっていた経験が役に立った。重田はビデオ・カメラの問題として「高価な商品にもかかわらず,イベントのときにしか使わない」という利用頻度の低さに注目した。小型・軽量でいつでも持ち歩ければ,もっと利用頻度が上がり,従来のビデオ・カメラとは異なるニーズを掘りおこせるのではないか。それは,塩路がPCムービーで目指したコンセプトとも共通する特徴だった。

 重田は,商品イメージを具体化するため,発砲スチロール製のモックアップを多数試作した。何十種類ものモックアップを女性社員に持ってもらい,少しでも違和感のあるデザインは落としていった。最終的に,「試したモックアップは100パターンにも上った」(重田)という。こうした試行錯誤を繰り返すうちに,現在のXactiに近いデザインが徐々に形作られていった。

 重田は選び出した数種類のデザインを基に,実際の商品に近いモックアップを試作して壽に報告した。壽は過去に携帯電話機事業を手掛けた経験からデザインにはこだわりがあり,なかなか首を縦に振らなかったが,何度かの修正の後に許可を出した。最終的に決定したデザインは,グリップ型の斬新な形状だった。

「失敗したら次はないぞ」