前編より続く

日立製作所が自信をもって世に送り出した
初代イオン洗浄洗濯機は,
松下電器産業の遠心力洗濯機の前に苦戦を強いられていた。
販売不振の原因として,営業部隊から
真っ先に指摘されたのは「塩」。
開発チームは,名誉挽回を期し
2代目イオン洗浄洗濯機の開発に取りかかるが…。

「小池さん最近さぁ,悪い宗教にでもとりつかれたみたいだよね」

 周りからみると,それは不可思議な光景だった。朝から晩まで実験室にこもり,出来損ないのしゃぶしゃぶ鍋のような容器を作っては,そこに塩を入れ水を流す作業を延々と繰り返しているのだ。たまに実験室の外に居たかと思えば,今度はうつろな目つきで「1.2cmで0.7秒だから,ああだ,こうだ」と独りつぶやいている。

 1999年1月。イオン洗浄の生みの親である小池氏は,周囲から気味悪がれるほどのひたむきさで,2代目イオンチェンジャーの開発を進めていた。そのかいあってか,答はおぼろげながら見えてきた。これまでのように上側から塩に水を流すのではなく,下側から水を染み込ませて塩水を作り,それをイオン交換樹脂に流すのである。 

 今度のイオンチェンジャーでは,1カ月分の塩をまとめて入れられるようにしたい。しかし,これまで同様に上側から水を流すと,塩の残量によって濃度がとんでもなくバラついてしまう。1998年10月に取り組んでからというもの,ずっとこの問題に頭を抱えてきた(表1)。

表1 イオン洗浄洗濯機の開発の歩み(表:日経エレクトロニクス)
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THE小池スペシャル

図1 塩を入れる部分を着脱可能に
容器を取り外して塩が入れられるようにした。500gの塩がストックできる。1日1回の割合で洗濯した場合,この量で約1カ月洗濯できる。(写真:日経エレクトロニクス)

 その打開策のヒントが,鍋の真ん中に筒が飛び出た「しゃぶしゃぶ鍋」。この筒を鍋の縁より低くして,そこから塩水を取り出そうというのだ。

 「上がダメなら下から」。そう発想を切り替えてみたら,しゃぶしゃぶ鍋に行き着いた。低くした穴には傘をかぶせ,容器全体は設計からの要求どおり直方体に。そして,塩はカゴを使って入れるようにする(図1)。これが「THE小池スペシャル」のしゃぶしゃぶ鍋,いや,イオンチェンジャーの全貌だ。

 1月末,このTHE小池スペシャルを抱き,小池氏は多賀工場へと向かう。不気味な微笑みをたたえながら…。