前編より続く

「今年の日立さんのはすごいですなぁ」
販売店との商談会で,
近年まれに見る評価を受けた初代イオン洗浄洗濯機。
当然,開発チームは自信に満ち溢れて
1998年7月7日の発売を迎えた。
ところが…。

「あっ,森川さん,お久しぶりです。今日から復帰ですね」
「おはよう。いろいろ心配かけたけどまたよろしく。早速なんだけど,新製品の売り上げデータ見せてもらえる?」

図1 森川祐介氏
日立製作所 電化機器事業部 商品企画部部長代理。(写真: 新関雅士)

 森川祐介氏は,洗濯機の販売促進の担当者である(図1)。イオン洗浄洗濯機のカタログや新聞広告,店頭ポップ注)などの企画,制作活動に従事していたが,発売数カ月前に体調を崩し,しばらく休暇を取っていた。

注)POP 広告(point-of-purchase advertising) のこと。ポスターなど,店頭で製品のそばに掲示される広告を指す(例:冒頭の写真)。

「こんなもんかぁ」
「まずまずといったところでしょう。ほかは今月から新製品を出してきますから,7月はウチのがどうしても割高に見えたようです」

「本当の勝負はこれからってことね。松下は遠心力で,三洋は超音波,今年は他社も個性的な新製品出してくるから話題になってるねぇ」

「ええ。記事になるのはいいんですけど,ウチのは“洗濯槽に塩を振りかけるユニークな洗濯機”なんて書かれちゃって」