前編より続く

噂は本当だった

「俺はしょうがないと思うよ。シェイクシェイクじゃなぁ」
「そうかもね。コンパクト8kgがあるし,イオン洗浄が消えてもなんとかなるだろう」

「コンパクト8kgって,8kgの洗濯物が一気に洗えるけど本体はこんなにコンパクト,ってやつだっけ?」
「そうそう。前にもコンパクト7kgってあっただろ,あの2番煎じ」
「あぁ,あれって売れたもんな」

「でさぁ,イオン洗浄って,もともとはコンパクト8kgの抑えだったらしいよ」
「えーそうなのー」

「コンパクト8kgだけで進んでたんだけど,後ですごくよさそうだからって入れたんだって」
「そういうことかぁ。じゃあ,設計の連中もそれほど焦ってるわけでもないのね」

 初夏の多賀工場,昼休みの話題といえば,やはり家マ戦での顛末だった。だが,噂の当人たちの間では,イオン洗浄を口に出すことさえなくなっていた。イオン洗浄はやはり2番手だったのである。急きょ仕様変更になった新製品に照準を絞り,開発にいそしむ日々を送っていた。

安室奈美恵さんとは裏腹に

 一方,多賀工場から70kmほど離れた機械研究所には,イオン洗浄が暗礁に乗り上げたという連絡とともに,「リフレッシュ作業の自動化」という新たな課題が持ち込まれていた。

「樹脂の次は塩かぁ」

 受けて立つのは,もちろん小池氏率いる数名である。

「小池さん,リフレッシュの自動化って,機械を使ってシェイクシェイクをやるってことですか?」
「ちがうちがう。そんなややこしいことじゃなくって,二つの容器の中に水を流すだけでリフレッシュできるようにしたいんだ。水はまず塩の容器を通って塩水になり,次に樹脂に入ってリフレッシュする。完璧だろ」

「はぁ。でも,水を通すだけでうまく塩水が作れるんですかね。塩はなかなか溶けないですよ。だからシェイクシェイクしてたわけだし」
「うーん,たしかに。そこが問題だよね。リフレッシュに必要な塩の濃度は10%。まずはこの塩水が自動的にできるようにしなくっちゃ」