前編より続く

 効果は確認した。でも,実際に軟水を洗濯に使うにはどうしたらいいのだろうか。ヨーロッパなどでは家庭でも軟水機を設置している。だがそれは,とても洗濯機に組み込めるようなものではない。軟水機だけの大きさが,洗濯機ほどもあるのだ。こんなものを洗濯機のどこに押し込もうというのか。考えるだけで気が遠くなる。

洗濯機に組み込むなんて無茶

「うじうじ思い悩んでてもしょうがないな。こと水に関しては素人なんだし」

 まずは専門家の意見を聞いてみることにする。確か発電所や工場向けに,水を研究しているグループが社内にあったはずだ。

「あのー,ちょっとお伺いしたいんですが,私,いま,水道水からCaイオンやMgイオンを取り除く方法を探してまして。教科書を読むと何種類か方法があるようなんですが」
「あぁ,手っ取り早いのはイオン交換樹脂を使う方法ですね」
「一般の軟水機で使われてる方法ですよね。でも,軟水機って大きいですよね。もっと,装置を小さくできる方法はないでしょうか」
「そうですねぇ。磁界や電界を使う方法がないわけではないですが,流量がとれないからなぁ」

 流量はともかくとして,装置を小さくする方法がないわけではなさそうだ。とりあえず,試作にかかる。まず手掛けたのが磁界を使う軟水機だ。教科書に載っている模式図を手掛かりに,なんとか装置を組み立てる。スイッチオン…。

 こりゃダメだ。ちっともイオンがなくならない。循環させて様子をみるが,いつまでたってもイオンは減らなかった。

「おいおい,何回循環させりゃいいんだ」

 いくら小型でも軟水ができなければ意味がない。装置を改良し,それでダメならほかの方式を検討し…。やれることはひと通りやってみた。だがどうしても,イオン交換樹脂法に代わる方法を見つけることはできなかった(図3)。

図3 「イオン洗浄」洗濯機
(a)1998年7月に発売した初代機「水かえま洗科」。ただし,ヒット商品となったのは,この次のモデルで,1999年8月に発売した「白い約束」である。(b)イオン洗浄とは,日立製作所がつけた名称で水道水からCa2+イオンやMg2+イオンを取り除くことで,これらと洗剤との無駄な接着物をなくし,汚れを効率良く落とす機能をいう。この機能により,靴下のつま先やワイシャツのえりなどの強固な汚れを落とす洗浄力が生まれた。(写真,図:日立製作所)
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100が限界だわ

 そんな折,ある調査結果が小池氏に伝えられた。洗浄力に対するモニタ調査を行なった結果,「一般家庭100軒から洗濯後のワイシャツを集めて調査したところ,汚れ落ちの満足レベルを達成するには硬度を40ppm程度にすればよい」との結果が出たというのだ。