コントラスト比や反射率が紙に近く,文字を読みやすいという特徴があるモノクロ電子ペーパーは,液晶パネルに対するコストアップが許容され,採用が進んできた。しかし,以上見てきたように,カラーの品質が液晶パネルに比べて大幅に劣り,コストも高い現状では,iPadのような液晶パネル搭載端末や,Kindleのようなモノクロ電子ペーパー端末を,カラー電子ペーパーが急速に置き換えていく可能性は低いだろう。Kindleを展開するAmazon.com社 President,CEO and Chairman of the BoardであるJeffrey Bezos氏は,2010年5月に「現時点でカラー電子ペーパーを採用する予定はない」と発言している。
こうした厳しい見方がある一方で,電子ペーパーならではの特徴を備えつつ,「カラー」であることに価値を見いだす端末メーカーなどもいるかもしれない。実際,読書好きのKindleユーザーにも,カラー化の要望は多いという調査結果がある(図6)。カラー電子ペーパーの市場がどれだけ広がるのかという予測は難しいが,軽量・薄型,低消費電力という優位性を保ち続ける限り,少なくともすべての市場を液晶パネルに駆逐されることはないという見方が妥当だ。
E Ink社も産業用途に本腰
もし仮に,カラー電子ペーパーが電子書籍市場で好ましい評価を受けなかった場合,今後の事業拡大を産業用途に懸けるメーカーも増えてくるだろう(図7)。ここにきて,この市場をめぐる動きも活発になってきた。
産業用途ではこれまで,規模は小さいながら,ブリヂストンなどの電子ペーパー・ メーカーが先行していた。そこに,いよいよ最大手のE Ink社が乗りだしてきた。同社は2010年5月末,産業用途の市場を開拓するため,ディスプレイのシステム提案に強みを持つ台湾Chi lin Technology Co., Ltd.と業務提携した。両社は流通分野やサイネージ,医療機器,電子値札などに向けた電子ペーパー・モジュールを共同開発し,SID 2010で披露した(図8)。2010年下半期に量産出荷を始めるという。
今回のE Ink社の動きについて,同社をよく知る業界関係者は「仮に今後,電子書籍市場で行き詰まった場合の“生きる道”を早めに確保しておこうということだ」とみる。