新しいプリンタの製品化に向かって動き出した開発陣。
その先導役を果たしたのが画像処理技術の開発者たちである。
ノズル径をできる限り小さく絞ったヘッドに,
濃度を薄めたカラー・インクを入れて画像を打ち出す。
これで銀塩写真に負けない画像が出来上がり,
開発陣全体の開発意欲が一気に高まった。
ところが,営業サイドはモノクロ印刷主体のプリンタ開発を主張,
カラー印刷にこだわる開発サイドと衝突する…。
セイコーエプソンが1996年6月に発売した「MJ-810C」。このプリンタは前機種で問題となった部分に応急処置を施し,緊急的に発売した製品だったという。当時のようすを,画像処理技術の開発を主に担当した武井克守氏が振り返る(図1)。
――あのときは,「ウチのプリンタに対する評判を1日でも早く取り戻さなければ」との思いでいっぱいでした。それでとりあえず,プリント・ヘッドなど基本的な機構部品は前機種と同じものをそのまま使い,問題だったインクだけを新しく開発したものに替えたんです。この応急処置で,ウチのプリンタに対する評判は,また高まっていきました。
こうした試練をいくつも乗り越えていくうちに,だんだん見えてきたんです。今後われわれが進むべき製品開発の方向性や目指すべきプリンタ像が。「インクは超浸透型,プリント・ヘッドはMLChipsを使い,銀塩写真を超える画像を打ち出すプリンタを開発しようではないか」。この方針で開発陣は一つにまとまりました。
とにかく画像を作り上げる
プリンタの開発で先行探索の役割を果たしていたのが,われわれ画像処理技術の開発陣です。「ノズル径をどのくらいまで絞れば,銀塩写真のようにきれいな画像を印刷できるのか」といった項目について検討していました。具体的には,ノズル径が15μm程度,打ち出すインク1粒の量が10pl(ピコ・リットル)程度であれば,写真画質に近い画像を印刷できることがわかった。ただ,それはあくまでもシミュレーションです。実際にどうなるかはわからない。