前編より続く

 高画質化を達成した「MJ-700V2C」ではあるが,改善しなければならない点がまだいくつか残っていた。まずは印刷速度の高速化である。カラー画像の場合,1枚当たりの印刷にかかる時間は16分。これではいくらきれいな画像を打ち出せても,そう頻繁には使われそうもない。ユーザから「実用的ではない」との声が出るのは目に見えていた。

解決すべき点はまだある

 二つ目の課題はさらなる画質の向上。これはセイコーエプソンのプリンタが他社製品と差異化を図るために,絶対に譲れない「生命線」だ。次の機種の課題としては,特に普通紙に印刷した場合の画質向上が挙げられた。

 そして,もう一つの課題がヘッドの低コスト化である。当時,他社が発売していたプリンタの場合,ヘッドがインク・カートリッジと一体化していた。そして,インクを使い切ったらヘッド自体も取り替える,いわゆる「使い捨てタイプのヘッド」だった。ヘッドが非常に安価であるがゆえ,可能となるワザである。

図2 主にプリント・ヘッドの開発を担当した碓井 稔氏
1979年に入社。現在の肩書は,情報画像事業本部TP開発センターIJ開発部部長である。(写真:小杉善和)

 これに対してセイコーエプソン。「MJ-700V2C」向けに開発した新しいヘッドは,従来に比べて小型になり,パフォーマンスも上がった。だが,使い捨てにするほど安くはない。「使い捨てができるくらいにヘッドを低コスト化できれば,結果としてプリンタ本体の価格を下げることができるはず」。これまでずっとヘッド開発に取り組んできた碓井稔氏は,そう考えていた(図2)。

プリンタの低価格化が始まった

 ――私がヘッドの低コスト化にこだわったのは,切迫した理由があったからなんです。

 「MJ-700V2C」を発売した1994年ころは,ちょうど他社が低価格プリンタを投入し始めた時期でした。そんな市場に反応して定価9万9800円で売り出した「MJ-700V2C」ですら,みるみる価格が下がっていきました。そして1年後には4万円台で売られる始末。

 こうした傾向は,今後ますます拍車がかかるだろうって思いました。だから製品のコスト競争力を付けなくてはならない。そのためには,次の機種ではとにかく安いプリンタを開発する必要がある。だからヘッドの低価格化は必須だったのです。