前編より続く

「よりきれいな画像を実現するためには,
解像度を360dpi(dots per inch)から720dpiに高めるしかない」。
これが画像処理技術を担当する武井克守氏が出した結論だった。
製紙メーカなどに掛け合った末,ついに現実のものとなる。
そして,次の機種開発に碓井稔氏らが挑む。
プリント・ヘッドの低コスト化や画質のさらなる向上。
だが,ここで下したある決断が大きな失敗を生むことになる。

セイコーエプソンで,主に画像処理技術の開発を担当する武井克守氏。1978年,セイコーエプソンの前身である諏訪精工舎に入社,現在の肩書は,情報画像事業本部TP開発センター TP開発部部長である。(写真:柳生貴也=本社映像部)

 ――どうすれば,画質をさらに高めることができるのか。いろいろ考えたんです。そして出てきた答えが,やはり解像度を高めて,専用紙に印刷するということでした。それまでのプリンタの解像度は360dpi(dots per inch)だったのですが,それを一気に倍の720dpiに高められたら…。そう思って,皆に提案しました。

 でも,結果は散々。まったく受け入れられなかった。「720dpiなんて無理,論外。「360dpiでいこう」ってことで,量産直前まできてるんじゃないか。いまさらどうする気だ」って反応で。

 ただ,私には確信がありました。見てしまったんです。実験レベルなのですが,ドットを小さくして720dpi程度で印刷してみると,本当にきれいな画像が出てくる。360dpiとは比べものにならない。だからなんとかして720dpiのプリンタを作りたかった。

 でも,皆が言っていることも確かに正しい。間違ってはいないんです。いまから720dpiを実現するために,すべての設計をやり直すなんてことは到底できない。かといって,720dpiをそう簡単にあきらめることも…。あのきれいな画像を見てしまったあとでは――。

見つけ出した光明

 こうして考え抜いた挙げ句,武井氏はある一つの結論にたどり着く。「設計変更を最小限に抑えながら,解像度を360dpiから720dpiまで高めるには,紙を工夫するしかない…」。

 プリント・ヘッドから飛び出したインク粒は紙に着弾すると広がり,ドットの直径が徐々に大きくなっていく。より高い解像度の画像を得るためには,ドットの直径をできるだけ小さく抑えなければならない。それには,着弾したインクがなるべく広がらない紙が必要になる。