コガネイが商品企画・開発プロセス革新を本格的にスタートさせたのは、2006年9月。そのきっかけを作ったのは、2004年10月に新設された製品企画グループでの取り組みだった。

新商品がなかなか売れない

 当時、同社は「開発した新商品がなかなか売れず、営業部門、開発部門、生産部門の間で責任を押し付け合っている状況にあった」(同社開発本部開発部開発1グループグループリーダの片桐朝彦氏)。それまで、同社には商品企画を担当する専門の部署はなく、新商品の企画は設計者が担当していた。にもかかわらず、設計者が商品企画のスキルを身に付ける機会はOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)や自己啓発ぐらい。多くの設計者は業務が忙しいこともあって、同スキルを十分に習得できずにいた。

 このため、設計者が思い付きのみで開発を始めたり、営業の要望をうのみにしたりすることが常態化し、顧客のニーズに十分に応えられる新商品を開発することが難しかった。同社が製品企画グループを新設したのは、まさにここにメスを入れるためだった。

 製品企画グループでは、商品企画のスキルを身に付けた担当者が、市場分析、販売分析、競合分析の結果と顧客ニーズに基づいて商品戦略を立案し、さまざまな商品の企画を作成する。それによって、顧客ニーズに合致した商品をしっかりと実現していけるように業務を変えていこうとしたのである。

 だが、ここにも壁が存在した。「設計者は自ら企画したものは懸命に作る。でも、他人の企画したものには力が入らないという傾向があった」(片桐氏)。

 当時の片桐氏は、製品企画グループの一員として商品戦略やさまざまな商品の企画を立案する立場。もともと設計者だった同氏は、同グループでの取り組みを通じて、やはり設計者が新商品の企画にかかわり、それを実現していけるプロセスを構築することが一番と感じ始めていた。「開発部なら具体的な開発案件に対して必要な手法やツールを導入できる」。こう考えた同氏は、自らが開発部へ異動し、そこで商品企画・開発プロセスの革新を図ることを決意する。そこで同氏らが立ち上げたのが、「第5世代バルブプロジェクト」だった。

在庫化する顧客ニーズ

 第5世代バルブプロジェクトを立ち上げるに当たり、片桐氏ら社内の有志が意識したのは、開発した新商品が売れない当時の状況のボトルネックはどこにあるのか、という点だった。参考にしたのは、TOCの考え方。TOCでは、システム全体のアウトプットは最も脆弱な部分(ボトルネック)の能力によって制約されるとの認識から、ボトルネックの改善に力を集中させる。コガネイの商品企画・開発プロセス革新でも、そうしたボトルネックの解消を1つの糸口としようとしたのだ。

 ここで、とりわけ興味深い点が、同社の同プロセスにおけるそうしたボトルネックが「顧客ニーズを収集してから製品仕様を決めるまでの間にある」と考えたことである。この点について、片桐氏は次のように説明する。

 「顧客ニーズは、その10年前にも調査していた。そこで、いろいろなニーズが把握されていたにもかかわらず、それから10年後の当時でも全く同じニーズが多数存在していた」。つまり、顧客ニーズの仕掛かり在庫が残っていたわけだ。同氏は「ボトルネックを見つける最も簡単な方法は、仕掛かり在庫に注目すること」と指摘する。その上で、「そうした在庫がたくさん存在していたということは、顧客ニーズと製品仕様の間にボトルネックがあることを意味している」と付け加える。

(次回に続く)