普段から営業担当者は,販売の最前線で厳しい現実を体感している。それが原因なのだろう。結局,「排気が少ない」掃除機の発表は叩かれるだけ叩かれ,ようやく幕が下ろされた。
よくよく考えてみれば
「何もそこまで言わなくても…」
技術や製品企画の担当者たちは,すっかり沈み込んだ。会議の目的はあくまでお披露目である。どんなに酷評したからといって,製品化することには変わりがない。しかも晴れの舞台で,あれほど叩かれたという話は聞いたことがない。製品を発売する前から「絶対に売れない」という
技術や製品企画の担当者たちには,「画期的な製品を作り上げた」という自負があった。それだけに納得がいかない。製品に対しても自信があり,売れるという確信もある。それなのに,なぜわかってもらえなかったのか。技術や製品企画の担当者が集まって議論することになった。
冷静に考えてみれば,そもそも「排気が少ない」掃除機はわかりづらい製品ではある。関係者は発表で説明を最後までまじめに聞いてくれた。家電製品に対する知識もある。その彼らに説明しても製品の魅力を理解してもらうことはできなかった。
では,同じ説明を家電販売店の販売担当者や,店頭で掃除機を選ぶ顧客にしたらどうなるのか。答えは単純だ。理解されず,売れない。どんなにすばらしい製品を作っても,売れなければ何の意味もない。
だれでもわかる説明を
結論としては,「平易にしたつもりだったけど,やっぱり難解な説明だった」ということである。「排気が少ない」掃除機の開発に携わり,のめり込むうちに「だれにでもわかるやさしい説明」ができなくなっていたことに気づいた。この掃除機は,いままでにない製品である。それを言葉だけで「還流型」とか言われても,わかるはずはない。
すばらしい製品だという自信はある。しかし,「製品がどうあれ,わかりやすく説明しなければ勝算はない」ことがはっきりした。
どうしたらわかってもらえるか。谷川氏や西澤氏らの試行錯誤が始まった(図3)。ともかく,わかりやすくするには,視覚に訴えるしかない。とりあえず,一目でわかってもらえるような「販売促進グッズ」を作るべきだろう。
さまざまな案が浮かんだ。まず,排気が少ないことを理解してもらうために,風車を使うことを試みた。風車を排気口に近づける。従来品では勢いよく回る。一方「排気が少ない」掃除機では,ほとんど風車が回らない。排気の強弱は排気口に手を当てて比べてもわかる。しかし,風車の回り加減ならもっとわかりやすい。さらに排気を還流させていることがわかりやすいように,2重管ホースの切れ端を置くことにした。