前編より続く

 そうはいっても,ホースの仕様を決めないわけにはいかない。技術者たちは,すぐに入手可能なホースを取り寄せては試作を繰り返し,気が付けば1998年も暮が迫っていた。しかし,技術者たちの悩みは解消されなかった。

細く見せればいい

「やはりホースが太すぎる」

 ホースの直径は,従来機種と比べても極端に太いわけではない。太くならないように仕様も決めた。「太く見える」だけである。

図3 水野嘉郎氏
ホーム・アプライアンスカンパニーデザインセンター家電デザイン部回転機デザイン課チーフデザイナー。今回の開発では,既存の掃除機のイメージを捨てて,まったく新しいデザインを自由な発想で作り上げることができた,と喜ぶ。写真の右はポットをイメージしたデザインのモックアップ。 (写真:山田哲也)

 再び「太さ」に悩まされ始めた技術者たちに,デザイン担当の水野氏から助け舟が出た。「だったら細く見せればいい」というのである(図3)。デザインを工夫すればホースが細く見えるというのだ。

 ホースは二つのホースが入れ子状になっている。内側のホースは従来機種のホースよりも断然細い。これには色が付いたホースを使う。そして外側には透明なホースを装着する。こうすると,内側のホースが目立って,ホースが実際よりも細く見える。「太く見えるのは視覚的なもの。視覚を逆手に取れば細くも見せられる」と,デザイン担当の水野氏が説明する。

 水野氏は「いままでにないデザインを作れ」との指示を受け,製品開発が決まった直後から要素部品をつぶさに観察してきた。技術者たちの苦労や,還流式掃除機の仕組みも知り尽くしている。

 常識的には,掃除機で透明なホースを選ぶことはない。ゴミや塵がホースに付着して,使えば使うほど汚れが目立つようになるからだ。しかし,「還流式なら透明なホースも使用可能なはず」という。

 確かに,開発していた還流式の掃除機では,人目に触れる外側のホースが汚れる心配はない。外側のホースに流れるのは,集(じん)塵じんしたあとの排気だからだ。「細く見えるうえに,スケルトン風という時流に乗ったデザインにできる」。そう,水野氏はにらんだ。

あえて外れたデザインを

 技術者たちが要素部品の開発を仕上げていくのと並行して,水野氏も掃除機のデザインのイメージを膨らませていった(図4)。しかし,参考になるデザインがない。いままでは,売れた製品を参考にすればよかった。

図4 デザイン画と掃除機のモックアップ<br>掃除機のデザイン画を作るに当っては,既存のデ ザインの延長線上にないデザインを発想することを心掛けたという(a)。 こうしたデザイン画を基に,各種要素部品の外形寸法を考慮しながらモックアップを作製する(b)。(図:三洋電機,写真:山田哲也)
図4 デザイン画と掃除機のモックアップ
掃除機のデザイン画を作るに当っては,既存のデ ザインの延長線上にないデザインを発想することを心掛けたという(a)。 こうしたデザイン画を基に,各種要素部品の外形寸法を考慮しながらモックアップを作製する(b)。(図:三洋電機,写真:山田哲也)
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