前編より続く

不承不承に「排気が少ない」掃除機の試作機を作った技術者たち。
彼らが見たものはこれまでにないほど格好の悪い試作機だった。
技術者たちの失望とは裏腹にこの試作機が,
「排気が少ないという新たなニーズ」の発見を生んだ。
そして,ついには「排気が少ない」掃除機が
三洋電機の50周年を祝う「TS商品」候補に抜てきされる。
製品化日程も決まり,技術者たちは開発ピッチを上げたのだが…。

「排気が少ない」掃除機の開発では,製造ノウハウがない要素部品が多く技術者たちはおおいに悩まされた。既存の掃除機にはない還流路を設置しなければならなかったことが主因である。特に掃除機のパイプやホースでは,いかに直径を細く,質量を軽く作るかが大きな課題だった(下)。たとえば,パイプでは2 重管を1 回のプラスチック射出成形で製造することで,軽量化を図った(中央)。 しかし,これだけ複雑な形状を成形するノウハウもやはりなかった。技術担当の小林氏(右上)の熱意に負け,金型製造業者は赤字覚悟で金型の試作を繰り返してくれた。(図:三洋電機,写真:山田哲也)

「いくらなんでも,これは太すぎるんじゃない?それに重たいよ」

 小林氏が試作した掃除機のパイプとホースを手に取りながら,製品企画担当の日向氏が渋い顔をしている。営業担当者も腕を組んで黙り込んだままだ。

 「排気が少ない」掃除機の製品化が決まってからというもの,技術者たちは要素部品の試作をしては,製品企画や営業の担当者を呼び評価会議を繰り返していた。

 「ホースだって…。消防車じゃないんだから,もっと細くならないわけ?」。日向氏の酷評が続く。

 これに対して小林氏が必死に説明する。「そうはいっても,吸気路と排気路があるわけで,パイプとホースの断面積は単純に2倍になるわけで…」。パイプやホースの直径は吸い込み性能を確保しようとすると,どうしても大きくなってしまう。しかし,異様に太いホースとパイプが付いた不格好な掃除機を目の前にして,どんな必然的理由を説明したところでむなしい。

 「理屈はわかった。わかったけど,これではダメ」。営業担当者がそう言い放って会議は終わった。