製品開発といっても,何も決まっていない。仕様もない,還流式掃除機のノウハウもない,何もないのだ。技術者たちの本当の苦闘は,ここから始まった。
ないない尽くしで
まず,小林氏があり合わせの材料とガムテープを使って試作の噴射機構を作り,実験を始める(図2)。噴射した空気流で
ところがここで根本的な課題が浮き上がった。排気や吸気の流量が決まっていないために,ブラシ部分の設計ができないのである。前例のない製品だけに,どれくらいの流量を想定すればよいのか,さっぱりわからない。
このころ,どの技術者も同じような問題に直面していた。その根本原因は,モータの仕様が決まっていないことにあった。周りの仕様を詰めていくためには,モータの仕様をまず決めなければならない。だがそれも,何もわからない状態では決められない。「いやはや,とんでもない迷路に迷い込んだもんだ」。斎藤氏は思わず天井を見上げた(図3)。
決め手はお風呂の温度
悩ましいのはモータの外形寸法と出力,排熱に使う排気の量の関係である。まず,開発する掃除機は,排気を還流させる機構を搭載する分,通常の掃除機よりも筐体が大きくなる。コンパクトな掃除機を作ろうとすれば,モータを小さくしなければならない。
ただし,モータを小さくすれば,出力も下がってしまう。上級機種で一般的に使われているモータは出力1kW。想定しているモータの大きさから逆算すると500W~700Wの出力のモータしか使えない。当然,吸い込み流量も減ってしまう。
それはいかがなものか。といってモータの出力を高めると,筐体が大きくなるだけでなく,熱の発生まで大きくなってしまう。排熱対策が大変だ。排気量を制約すれば還流する空気の温度は上がってしまうし,温度を下げようとすれば,排気が増え「排気が少ない」掃除機とは呼べなくなってしまう。