前編より続く

「特徴のある製品で不毛な吸い込み率競争に終止符を打ちたい」。
その思いから「排気が出ない」掃除機を立案した企画担当の日向氏。
技術者たちに要素技術の検討を強引にのませた。
しかし技術者たちに「要素技術的に不可能」
という結果を突き付けられてしまう。
そこで飛び出したのが,「排気が少ない」掃除機という妥協案。
技術者たちは,この原理試作に取り組むことになったのだが…。

「TS 商品」とは,三洋電機の株式会社化50 周年を記念する製品。1998 年2 月に各技術者は,TS 商品に対する自分のアイデアを企画書にして提出しなければならなかった。技術担当の雑古氏(写真)は,実現するはずがないと思いつつ「排気が出ない」掃除機を候補として申請する(上)。企画書には「全面排気カット」とうたっている。1998 年4 月にはそれを「排気が少ない」掃除機の企画に変え,新商品概要書を作成した(下)。(図:三洋電機,写真:山田哲也)

「またやることになりました」

 技術担当の山本氏と雑古氏は,大阪本社で行なわれた定例会議から帰ると早速技術者たちに説明を始めた。

「方針転換することになりましてー,えー「排気が出ない」掃除機ではなく,今度は「排気が少ない」掃除機という方向で…」

 技術者たちがつぶやく。

「まだやるの?」

 無理もない。この段階で,「排気が少ない掃除機」を製品化できると考えていた技術者は一人もいなかったのだから。

 確かに,排気を逃がすことが許されれば,掃除機本体を若干は冷せる。モータやコード・リール部が過熱する問題は解決できるかもしれない。だが,それはあくまで机上の話である。それを製品に作り込めるかどうかは,まったくの別問題だ。

こんな試作機見たことない

 そうはいっても,決まったものはしょうがない。ともかく原理試作は進めなければ。