前編より続く
特性改善が進む導電性高分子,PEDOT系材料が躍進

新材料のうち,透過率やシート抵抗値などの特性が「ここ最近,急速に良くなっている」(多くの技術者)のが導電性高分子である。中でも,PEDOT(ポリエチレンジオキシチオンフェン)系の導電性高分子は,ここ数年で大幅に特性が向上しているという注A-1)

 導電性高分子の特性向上に伴い,電子デバイスの試作に実際に応用される例が増えつつある。例えばブリヂストンは,2009年6月に発表した電子ペーパーの試作品にPEDOT系高分子を採用した(図A-1)。今回,導電性高分子を採用したのは,印刷技術を適用でき,かつ屈曲性に優れる材料の中で,「高透過率と低シート抵抗値をある程度両立できる材料だった」(同社)ためである。

注A-1) 三洋電機と東京工業大学 教授の山本隆一氏の研究グループが2009年3月に,導電率が1200S/cm以上と高いPEDOT系の導電性高分子を共同で試作済みである。この高分子を使って厚さ120nmの透明導電膜を作製したところ,シート抵抗値は約68Ω/□程度だった。ただし,波長550nmの光の透過率は約75%程度と低く,実用水準に達していなかった。一方,2009年5月に,透明性と導電性の両立を図ったPEDOT系の導電性高分子を試作したのが,山梨大学 大学院 医学工学総合研究部の厳虎氏らである。シート抵抗値がタッチ・パネル用途を狙える244Ω/□の場合に,全光線透過率をITOフィルム並みの約89%にできた。

図A\-1導電性高分子を利用して電子ペーパーを試作<br>ブリヂストンは,透明電極に導電性高分子を採用した電子ペーパーを試作した(a)。利用した導電性高分子は,波長500nm以下の光であればITOに比べて透過率が優れる上,波長によらず透過率がほぼ一定である(b)。シート抵抗値が300~400Ω/□で,波長550nmの光の透過率は86%程度と,実用水準である(c)。(図:ブリヂストンの資料を基に本誌が作成)
図A-1 導電性高分子を利用して電子ペーパーを試作
ブリヂストンは,透明電極に導電性高分子を採用した電子ペーパーを試作した(a)。利用した導電性高分子は,波長500nm以下の光であればITOに比べて透過率が優れる上,波長によらず透過率がほぼ一定である(b)。シート抵抗値が300~400Ω/□で,波長550nmの光の透過率は86%程度と,実用水準である(c)。(図:ブリヂストンの資料を基に本誌が作成)
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 ブリヂストンが採用した導電性高分子のシート抵抗値は,300~400Ω/□で,全光線透過率は86%程度である。「電子粉流体」を用いる同社の電子ペーパー(粒子移動型)であれば,「十分動作する」(同社)という。表示の切り替え時にしか電流を流さず,それほど高い導電性が求められないためという。試作した電子ペーパーの解像度は82dpiと,「値札向けに現在量産中の電子ペーパーと同程度」(同社)である。

 ブリヂストンは,今後も導電性高分子の特性向上が見込めるとしており,「いずれITOに匹敵する数Ω/□のシート抵抗も実現できるはず」とみる。既に,86%程度の透過率で,シート抵抗値が200Ω/□の導電性高分子を入手済みという。

―― 終わり ――