前編より続く

 2004年9月25日,ついにビタミンCを増やす機能を搭載した冷蔵庫が発売された。平岡や八木田らの奮闘もあって,2003年秋に開発に着手してからわずか1年足らずで製品化にこぎ着けることができた。ユーザーへのアンケートでは「野菜が甘くなった気がする」「ビタミンが増えて野菜が元気になっている」といった声が寄せられた。平岡の狙い通りユーザーからの支持を得たことで,三菱電機の冷蔵庫は2004年の国内シェアをグッと伸ばすことができた。

 ユーザーからの反響も大きかったが,それにも増してすごかったのはマスコミの反応である。ビタミンCを増やす機能の陣頭指揮を執った平岡は,冷蔵庫の営業を担当したことがある広報担当者に説得されてマスコミ対応を任されていた。軽い気持ちで引き受けたものの,想像を超える数の取材依頼が次々と舞い込んだ。新聞には「鮮度『保つ』の先行く発想」「冷蔵庫に+α機能次々と,攻めの姿勢で奇抜発想」といった見出しが躍った。

次はポリフェノールを増やす

 予想を超える反応に喜んでばかりもいられない。既に次期モデルの開発が始まっており,平岡は仕事の合間をなんとか見つけて取材に対応することになった。

 平岡が開発を進めていた次の製品とは,ポリフェノールを増やす冷蔵庫である。ビタミンCだけでなく,ポリフェノールも増やす機能を追加することで,栄養を増加させる冷蔵庫としての地位を確固たるものにする狙いがあった。

ポリフェノールを増やす技術の開発を進めた三菱電機住環境研究開発センター製品化技術開発部家事家電グループ専任の八木田清氏

 もちろん,実験を担当するのは八木田である。紫外光を野菜に当ててポリフェノールを増やす研究を手掛ける神戸大学 教授の金沢和樹の下で,早速実験を進めていた。金沢が副センター長を務める神戸大学の連携創造センターには,三菱電機からの出向者が所属しており,そのつてでポリフェノールを増やす技術を八木田が知ることになったのだ。

 ポリフェノールの成分を測定するノウハウを持っていなかった八木田は,2005年3月~5月の間,金沢の研究室に通って実験と測定を繰り返した。紫外光を当てたクレソンを液体窒素で粉砕して,2日間程度凍結乾燥した後に,高速液体クロマトグラフィで測定する。金沢の研究室の学生が,卒業実験の合間を縫って八木田の実験に協力した。