基礎検討を終えたことで,平岡の仕事は営業担当者などとともに光でビタミンCを増やす機能をどのようにユーザーや販売店にアピールするか,という点に移った。例えば,カタログに記載する文言が妥当かどうかなどを検討していった。

 ビタミンCを増やす機能をユーザーにアピールする上で,ビタミンCが増えたことを目で見ても分からない点が最大の悩みどころだった。さらにもう1つ,平岡にはユーザーの反応で気になる点があった。光を野菜に当てると,光合成によってクロロフィルが活性化して野菜の緑色が濃くなる点だ。ユーザーに気持ち悪いと受け止められないかが心配だった。ところが,営業担当者に話すと,思ってもみなかった答えが返ってきた。

「緑色が濃くなる? 目で見て分かるほど変わるのですか?」

「そうなの。奇妙に思うよね」

「いやいや。そんなことないですよ。むしろ,光の効果を示す格好のPR材料じゃないですか」

 予想もしない展開で,製品カタログにキャベツの色の変化を載せることになった。さらには,昔懐かしいパラパラ漫画の要領で,光を当てた場合と光を当てない場合のキャベツの色の変化を示す販売促進用の冊子なども作成した。

 担当者だけでなく周囲の協力もあって,ビタミンCを増やす機能をユーザーにアピールする材料が次々と集まった。例えば,こんなことがあった。ある日,平岡に同僚が声を掛けた。

「平岡さん,野菜にLEDの光を当てる冷蔵庫の開発をしてるんだったよね。今朝のテレビで『花博』の紹介やってたの見た?」

 花博というのは,2004年4月~10月に静岡県で開催された博覧会「浜名湖花博」のことである。

「今朝は忙しくて見てる時間なかったんだけど…。どうして?」

「チンゲンサイにLEDで光を当てて,成長を促進する技術が紹介されていたよ」

 三菱電機の冷蔵庫開発拠点がある静岡県で開かれる博覧会で,LEDの光を野菜に当てるという話に,平岡は運命的なものを感じた。早速,番組を録画したビデオ・テープを入手して,LEDの力を示すためのツールとして活用した。