2004年初頭。夜の寒空の下で閉店後のスーパーマーケットの様子をうかがう不審な女性がいた。ガラス越しに野菜売り場をじっと見つめ,首をかしげている。

「おっかしいなあ。真っ暗じゃない」

 予想を完全に裏切られたという表情をしているこの女性は,発光ダイオード(LED)の光で野菜のビタミンCを増やす冷蔵庫の開発を進める三菱電機 静岡製作所の平岡利枝である。2004年秋の製品化に向けて開発は佳境に入っており,平岡の頭の中はビタミンCを増やすことでいっぱいだった。ビタミンCを増やす技術について調べれば調べるほど,その可能性に魅了されていった。

ビタミンCを増やす機能の中枢であるオレンジ色の発光ダイオード(LED)。

「こんなにすごい技術なんだから,既に使っている分野があるはず。そうだ,スーパーマーケットなんて,うってつけじゃない。閉店後に野菜に光を当てて,ビタミンCを増やしているに違いない!」。

 そう考えた平岡は,居ても立ってもいられなかった。夜になるのを待って,家の近くのスーパーマーケットに確かめに来たのだった。残念ながら平岡の予想は外れたが,光でビタミンCを増やす技術に対する思いは揺らぐことはなかった。

ラスト・スパート

 そのころ,平岡にビタミンCを増やす技術を提案した三菱電機 住環境研究開発センターの八木田清は,迫り来る発売日を意識しながら地道な実験を繰り返していた。ビタミンCを増やす効果の確認作業はほぼ終了し,次の段階へと移っていた。光の効果がない野菜や,何らかのマイナスの影響が出ないかなどを調べる実験である。