これまで静電気は集塵機,トナープリンタ,オゾン発生器などに利用されてきた。しかし,電荷が移動するため電荷密度が低く応用分野は限られていた。従来の静電気は,動作時に電荷を静電誘導などで発生させていた。このため発生する電荷量が少なく,大きな力を得ることができなかった。というのも,技術者に電荷を閉じ込めると言う発想が無かったためである。

 本稿で提案する『帯電体工学』は従来の静電気の利用とは異なる。帯電体工学では帯電体の製造時に大量の電荷を安定的に閉じ込める。このことにより,電荷密度を1000倍以上に高められる。クーロン力は電荷量の二乗に比例するから,100万倍以上に高めることが可能だ。

 このため,クーロン力は磁力よりも大きい力となる。安定した帯電状態を保持できれば,磁石と同じように広い応用分野が存在する。効率の良いモータや発電機を製造できる可能性があるわけだ。

材料の物性値には頼らない

 現在,電磁モータは永久磁石の磁力を利用するものがほとんどである。従って,高性能化のためには永久磁石の残留磁束密度を高めなければならない。磁力は以下の式に示すように,磁束密度の二乗に比例する

 この式にある磁束密度は材料固有の物性値である。このため,磁束密度を高めるには,希少資源である希土類金属を使用しなければならない。

 しかし,希土類金属は現在,中国に独占されているという問題がある。中国が価格高騰を狙って戦略的に生産量を減らす動きもあるようだ。このため希土類金属を利用しなくても,性能を高められるモータに対する要求が強い。

 このように,磁力が物質固有の磁束密度に依存するのに対し,クーロン力は電荷量に依存する。クーロン力は,次式で分かるように,物質に依存せず電荷量を増やすことで制御できる。

 要はクーロン力は物質に依存しないのだ。永久磁石とクーロン力の源となる電荷を比較したのが下の表だ。物性に依存しないということは,経年劣化もなく,そして物理量の制御も可能であるということだ。