「テレビ作りへのこだわりに加えて,半導体技術やLED技術など,東芝が持っている総合技術力の結晶である。最高のエンターテインメント・マシンだ」(同社 デジタルメディアネットワーク社 社長の大角正明氏)─。

 東芝が発表した55型の液晶テレビ「CELL レグザ(REGZA) 55X1」は,間違いなく今回のCEATECで最も注目を集めた製品の一つだ(図1)。同社の展示ブースでは,CEATEC開催前日の2009年10月5 日に製品発表会が開催されたほか,ブースのほとんどがCELL REGZA関連の展示で埋め尽くされるなど,例年にない展示方法にも注目が集まった。

図1 Cell搭載テレビが注目を集める
図1 Cell搭載テレビが注目を集める
東芝はマイクロプロセサ「Cell」を初めて搭載した55型の液晶テレビ「CELL REGZA 55X1」を発表した。 画面寸法は55型で,画素数は1920×1080。2009年12月上旬に発売し,想定価格は100万円である。 CELL REGZAが,同社の展示の大部分を占めた。

 CELL REGZA 55X1は,東芝とソニー,米IBM Corp.で共同開発したマイクロプロセサ「Cell Broadband Engine」(以下Cell)を初めて採用するテレビである。Cellの浮動小数点演算能力は200GFLOPSで,同社の従来品に搭載するLSIに比べて処理性能は143倍と高い。この膨大な処理能力をベースに,さまざまな機能をソフトウエアで実現する。今回は,入力映像の解像度を画像処理で復元する超解像技術の強化や地上デジタル放送を同時に8番組,録画/再生する機能を,Cellの処理能力を使って実現する注1),1)。これまで,メーカー各社がギリギリのハードウエア設計で作ってきたテレビとは一線を画す。

参考文献
1) 佐伯,「Cellをテレビにどう使ったのか,高画質化と8番組録再機能に」,『日経エレクトロニクス』,2009年10月19日号,no.1015,pp.8─9.

注1) ハードウエア面の特徴は以下の通りである。搭載する液晶パネルも表示性能を向上しており,ピーク輝度は1250cd/m2,映像表示時のコントラスト比は500万対1である。容量が3TバイトのHDDと,合計14台に及ぶデジタル・チューナーを搭載する。

将来は二つの方向に進化

 東芝はまた,1~2年後の製品化を目指したCELL REGZAの次世代機も展示した。今後は,「高級機と普及機という,二つの方向で進化していく」(同社)とする。

 高級機については,「4K×2K」(4000×2000画素級)と3次元(3D)映像に対応する試作機を披露した。4K×2Kテレビの試作機は,画面寸法が56型で,画素数が3840×2160。超解像処理を用いて1920×1080画素のフルHD映像を,3840×2160画素の映像に復元して見せた。

 3Dテレビの試作機では,Cell上で通常の映像を3次元映像に変換するほか,距離画像センサを用いたユーザー・インタフェース(UI)のデモを披露した。3D映像への変換は,テレビ放送など通常の映像からシーン内の情報や運動視差などを基にして,3Dテレビ向けの映像を疑似的に作り出すものだ。

 UIについては,テレビの横に設置した赤外線方式の距離画像センサで,テレビの前に立つユーザーの腕の動きを認識させる。映像の再生中に,手のジェスチャーによって音量を変化させたり,球面上にサムネイル映像が配置された立体的なUIを手で回しながら操作して映像を選んだりできる。