COLLEGE 製造業の“本当”を探求
 

第5回:返済条件付きの開発資金(上)

枝 洋樹
2010/09/21 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2004年4月12日号 、pp.179-181 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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前編より続く

極薄チップの製造技術によって、ICカード事業を立ち上げる
キッカケをつくった日立製作所の宇佐美光雄。
次に目指したのは、ゴマ粒ほどの大きさしかないチップの開発だった。
小型化によってチップの機械的強度を高めるのが狙いだ。
ただし、チップを小さくすることは機能を削ることを意味する。
その矛盾を解こうと考えあぐねる宇佐美の目に映ったのは、携帯電話の広告だった。

「ネットワークを使えばいい!」

 NTTドコモの「iモード」の広告を見て,通信料金の安さに気が付いた宇佐美光雄。頭の中でひらめいたのは,ICカードのほとんどの機能をネットワークの向こうにあるサーバ機に持たせるアイデアだった。

 当時,ICカードといえば,より高いセキュリティを求める市場の声に合わせて,高性能のCPUコアや暗号処理回路など多くの機能を搭載するのが当たり前だった。より付加価値の高いチップを売りたいという半導体メーカーの狙いにも合致していた。これでは,宇佐美が開発をもくろむ極小チップを実現することは不可能に近い。機能の増加はチップ面積の増大を意味するからだ。

 ただし,そうならないための解決策が今はある。以前とは比べ物にならないほど安価になった通信コストを利用するのだ。これを追い風に,ネットワークを積極的に活用することを前提にすれば,機能をとことんそぎ落としたチップを実現できるはずだ。

 宇佐美の頭には,ありとあらゆるモノに張り付けられた極小チップと,ネットワーク,そしてその先につながるサーバ機が連携して動くシステムの青写真が一瞬にして描かれた。

「これはすごい技術になるぞ」

 そう確信した宇佐美がまず思い立ったのは,極小チップに名前を付けることだった。新技術を世の中に広く普及させるには,簡単で誰もが覚えやすい名称が必要になる。コンピュータの営業部門で顧客を相手にしていた経験がある宇佐美にとって,一度聞けば印象に残る名前をチップに付けることは,自然な発想だった。

図2 従来のPLL回路
ガラスに張り付いている黒い粒1つずつがミューチップである。

 しばし考えた末に宇佐美が決めた名前は「ミューチップ」。東京大学が開発した国産ロケット「ミュー・ロケット」にあやかったものだ。当初は大学の研究者が開発した小さなロケットだったが,やがて日本の宇宙事業の象徴ともいうべき存在となった。「極小チップもいずれ世の中に広く認めてもらえる存在に…」。研究者としての熱い思いを込めた。

セキュリティ技術を検討

 ミューチップを実現するために,ICカードの機能を一体どこまで削ることができるか。それを見極めるために宇佐美は,当時システム開発部門にいた宝木和夫の助けを借りることにした。

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