前編より続く

 このデモの成功で松下電器は,フィルタ自動清掃機能の製品化に向けて本格的に動きだす。2003年秋ごろ,開発は清水ら先行開発のチームから製品開発チームに移され,製品化に向けて設計や性能の評価が始まった。

 開発部門を率いたのは同社 松下ホームアプライアンス社 冷熱空調事業グループ エアコンビジネスユニット 空調開発グループ 国内RAC開発チーム チームリーダーの安田透である。そして,安田の下でフィルタ自動清掃機能を担当したのは,同チーム 主任技師の中川英明や,エアコンビジネスユニット 先行開発グループ 空質・デバイスチーム チームリーダーの赤嶺育雄らであった。

フィルタ自動清掃機能を製品に実装する際に,設計を担当した松下電器 松下ホームアプライアンス社 冷熱空調事業グループ エアコンビジネスユニット 空調開発グループ 主任技師の中川英明氏(左)と同 先行開発グループ チームリーダーの赤嶺育雄氏(右

 中川の担当は機構設計。清水の作った試作機を製品レベルに落とし込む作業である。例えば,清水の試作機では吸引ユニットを横方向に移動させるために,送りねじ機構を使っていた。だが高価すぎて,実際の製品では使えそうもない。そこで中川は6角断面の金属棒でウオーム・ギアを回して吸引ユニットを動かす移動機構を考案した。

 中川がとりわけ苦労したのが,吸引口を上下に動かすモータに給電するための配線の取り回しである。当初はホコリを吸い出す排気ホースにバンドなどで固定していたが,何度か稼働させると,徐々に配線がほどけて絡まってしまう。排気ホース自体が伸び縮みするからだ。考えあぐねた中川は,素材メーカーに「ミカンを入れる網袋のように,自由に伸縮する素材はないか」と問い合わせる。伸縮する網状の素材で配線ごとホースを覆い,問題を解決しようと考えたのだ。幾つかの素材を検討した末,実際の製品では競泳水着用の素材を採用した。

水着を着た排気ホース

指みたいな素材が欲しい

 中川が自動清掃機構の設計と格闘している一方で,赤嶺はフィルタ清掃機能の評価を進めていた。実際の状況に近いホコリをいろいろ用意して,きちんと除去できるかを一つひとつ確かめたり,効率よくホコリが取れる条件を探したりする。

 ところがテストを繰り返すうちに,どうやら吸引だけでは不十分だということが,だんだん分かってきた。例えば,ホコリが湿っていたり,フィルタの網目に絡まったりしていると,吸引だけではどうしても除去できない。吸引口の形状を変えたり,ファンの回転数を上げて吸引力を増しても効果は薄かった。取りきれないホコリがどうやっても残ってしまうのである。