前編より続く
Xシリーズの開発を指揮した松下電器産業 ホームアプライアンス社の安田透氏(左)と商品企画を担当した白石愛一郎氏(右)

 松下電器が,Xシリーズに搭載したフィルタ自動清掃機能の開発を始めたのは2002年春のこと。ちょうど富士通ゼネラルで高島が自動清掃機能の試作品を完成させつつあったころだ。

「フィルタ掃除が面倒」が1位

 キッカケになったのは,当時の同社代表取締役社長の中村邦夫が打ち出した「V商品」活動である。V商品とは「他社にないとがった特徴とお客様志向の魅力的な価格」の実現を目指した商品を指す。

 エアコン事業でも当然,V商品を生み出すことが求められた。当時,松下電器のエアコン事業は低迷期にあった。同社はそのころ,空気清浄機能を発展させて,酸素富化膜を使って外から高濃度の酸素を取り入れる「酸素チャージ」と呼ぶ機能をアピールしていたのだが,目ぼしい成果は出ていなかった。

 あらためて顧客のニーズを聞いてみようと考えた商品企画部門は,2002年の春先にインターネットを使って「将来のエアコンに望む機能」を尋ねるアンケート調査を行う。この調査結果を見た同社 ホームアプライアンス社 エアコン事業部 商品企画グループ グループマネージャーの白石愛一郎は驚く。意外な要望が1位になっていたからだ。

傍流技術はやりにくい

 Xシリーズの商品企画を担当した白石は当時,ユーザーがエアコンに求めるのはなんだかんだ言っても「省エネルギー性能と価格」だと思っていた。だが,そこは他社と差をつけにくい。そこで空気清浄機能に代表されるようなユーザーの健康志向を刺激する機能を強化して,他社との違いをアピールするのが得策と考えていた。

フィルタ自動清掃機能の開発に先立ち,松下電器が実施した消費者調査の結果
フィルタ自動清掃機能の開発に先立ち,松下電器が実施した消費者調査の結果
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 ところがアンケート結果の1位は「フィルタ掃除が面倒」,僅差の2位は「足元が暖まりにくい」だった。つまり,ユーザーはエアコンの絶対的な性能や快適機能ではなく,メンテナンスや使い勝手に不満を抱いていた。「これを追求すれば,とがった特徴になるかもしれない」。そう気付いた白石は,アンケートで1 位となった「フィルタ掃除」の面倒さを軽減する機能の実現に向けて動きだす。ところが技術陣の反応は一様に鈍かった。

 この理由を,Xシリーズの開発を指揮した松下電器 ホームアプライアンス社 冷熱空調事業グループ 空調開発グループ 国内RAC開発チーム チームリーダーの安田透はこう説明する。「フィルタ自動清掃機能はエアコンの技術者なら一度は考え付くアイデアの一つ。開発に踏み切れなかったのは,本流の技術ではないという意識があったから」。