前編より続く

 「あった,あった」。2001年暮れ,年末の大掃除で溢れたガラクタが山積みになった富士通ゼネラルのゴミ置き場で,RAC事業部 第二技術部の高島伸成が見つけ出したのは,古びたプリンターだった。高島は,開発リーダーの高橋からフィルタ自動清掃機能部分の開発を任された技術者である。フィルタを動かす機構を試作するために,中古プリンターの紙送り機構を流用しようと考えたのだ。

ゴミ置き場からプリンターを拾う

 フィルタ自動清掃機能の開発に当たって,高島がまず考えたのは「シンプルに徹すること」であった。他に例のない新しい機構だけに,欲張りすぎて失敗するのは避けたかった。フィルタに付くホコリは一様ではない。油分や水分を含んだホコリを全部取れるような機構を作るのは難しい。汚れがひどいときのために,ユーザーが簡単にばらして清掃できる構造にするのが当初からの目標だった。つまり高島らは完全なメンテナンス・フリーの実現をもくろんだわけではなかった。

 掃除機のような機構を組み込んでホコリを吸引する方式を開発の早い段階で捨てたのも,構造が複雑になるからだ。幾つかの方式を検討した上で高島が選んだのは,「フィルタをブラシで掃く方式」である。ヒントとなったのは,洋服に付いたホコリを取るエチケット・ブラシ。同様の仕組みのブラシを使えば,軽い力でホコリを確実にすくい取れるのではないかと考えた。

樹脂一体成形フィルタを採用

 年が明けて2002年。いよいよフィルタ自動清掃機能の開発が本格化する。高島らはまず,従来機のフィルタに,丸い棒に巻き付けたエチケット・ブラシをこすり付けて,どれくらいホコリを取れるか試してみた。

 結果は散々だった。取り切れなかったホコリが裏側に落ちたり,周りに散らばったりした。条件を変えて何度か試してみたが,好転しない。フィルタが樹脂の糸で立体の網目状に編んだ構造であるため,絡み付いたホコリがうまく取れないのだ。

フィルタは樹脂製。ダスト・ボックスとともに簡単に取り外せるようにした。

 そこで高島らは,網目を樹脂の射出成形で作るフィルタの採用を考える。これならば,ホコリをブラシで取りやすい形状に作れるはずだ。具体的には網を縦横に作り,フィルタが移動する方向のさんを少し高くして,ホコリを外に逃さない役目をさせるようにした。

 網目を樹脂で一体成形する手法がエアコン用のフィルタで使われた実績はなかった。前例のない技術の採用を決断したのは,フィルタ自動清掃機能の実現に不可欠と判断したからだ。例えば,フィルタからホコリを効率よく除去するためには静電気の発生を防ぐ必要があるが,樹脂成形のフィルタであれば素材に帯電防止剤を混ぜることで,比較的簡単に対処できる。

あらゆる条件を試し尽くす

 フィルタ素材の検討と並行して,高島は年末にゴミ置き場で拾ったプリンターを改造し,フィルタの移動機構の試作を始めた。最初は紙送り機構をそのまま流用して,フィルタの両端をゴム・ローラーが駆動する機構を試作してみたが,話にならない。ゴム・ローラーが滑ってしまい,フィルタを動かす力が出ない。両端で駆動する方式はフィルタがずれやすく,途中で引っ掛かりやすいことも分かった。