負荷に対して,希望通りの安定化電圧を供給することは難しい。電源と負荷をつなぐ配線で電圧降下が必ず発生するからだ。たとえ,レギュレータにおいて,希望通りの安定化電圧を生成しても,負荷電流が配線抵抗の影響を受けてIRドロップ(電圧降下)が発生して,負荷端での電圧は低下してしまう(図1)。しかも,負荷電流は変動しているため,負荷端の電圧は大きく波打つことになる。

図1 配線を介して電源から負荷に電力を供給するモデル
図1 配線を介して電源から負荷に電力を供給するモデル
電源と負荷を結ぶ配線には抵抗(RWIRE)が存在する。ここに電流を流せば電圧降下が発生する。このため,負荷に希望通りの電圧(VSUPPLY)を電源から供給することはできない。

 負荷端でのレギュレーション(安定化)特性をいかに改善するか。最も一般的な対応策は,リモート検出に向けた配線を追加する方法である(図2)。しかし,配線を追加したからといって問題を解決できるとは限らない上に,場合によっては適用できないケースもある。そこで新たな対応策「仮想リモート検出(VRS:virtual remote sense)」を開発した。既存策の「落とし穴」を回避することができ,既存策では解決が困難だった問題も解決できるようになる。しかも,既存策を簡単に置き換えることが可能だ。

図2 リモート検出ラインで問題を解決
図2 リモート検出ラインで問題を解決
リモート検出ラインを使って負荷端の電圧をモニターして電圧降下分を把握する。そして電源は,その分を上乗せして電圧(VSUPPLY)を供給する。こうすることで希望通りの電圧を負荷に供給できるようになる。しかし,リモート検出ラインを追加する必要がある。

既存策との比較

 仮想リモート検出方式は既存策に比べて,実装が簡単な上に,高いレギュレーション特性が得られる。以下で,直接リモート電圧センシングと電圧ドロップ補償,負荷端レギュレーションという三つの既存策と比較してみよう。

 最も一般的な既存策は直接リモート電圧センシングである(図2)。この方式は,負荷端において優れたレギュレーション特性が得られるというメリットがある一方で,電源と負荷の間に2対の配線が必要になるというデメリットがある。1対は負荷に電流を供給する配線。もう1対は,レギュレーション特性の確保に向けて負荷端電圧を検出するための配線である。リモート電圧センシングを使うには,設計段階であらかじめ採用を決めておかなければならない。設計作業が完了した後に,1対の配線を追加することはほぼ不可能だからだ。