トヨタ自動車のリコール問題は、世界でも大きく報じられた。一連の問題からは、品質を脅かす幾つかの要因が浮かび上がってきた。大別すると次の3つになる(図1)。
1つめは、顧客が求める品質に対する「メーカー責任の拡大」だ。当初、同社は新型プリウスにおけるアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)作動時のほんのわずかな空走感を「フィーリングの問題」と説明した。これが世論の反発を招き、結局リコールにまで追い込まれた。顧客の要求品質が「感覚」の段階にまで上がっていた一方で、同社はそこにはメーカー責任は及ばないと考えていたようだ。
2つめは、アクセルペダルの固着問題に象徴される「グローバル化の弊害」である。海外調達や海外市場の拡大で生じた品質検証の緩みに足下をすくわれた。
そして3つめは、バイ・ワイヤー化したブレーキの微妙な制御などに見て取れる「製品の複雑化・多機能化」だ。メカ・エレキ・ソフトが高度かつ複雑に絡み合う現代の技術は、全体像を俯瞰しにくく、品質の所々にほころびが生じやすくなった。
つまり、メーカー責任の拡大でより高度な品質の作り込みが求められる一方で、グローバル化と複雑化・多機能化によって品質の維持・向上自体が難しくなっている。換言すれば、メーカーはユーザーの求める品質をキャッチアップできない困難な状況に陥りつつあるのだ。そしてこのことは、「トヨタ自動車、あるいは自動車業界固有の問題ではない。販売台数や生産台数で世界一にまで上り詰めた同社に先鋭的に現れただけ」〔旧松下電器産業(現パナソニック)在籍時に FF式石油ファンヒータの回収に当たった文化学院理事長の戸田一雄氏〕なのである。
事実、グローバル化の波はあらゆる業界に及んでいる。リーマンショックで日本の産業構造が過剰な外需依存型だったことが明らかになったが、自動車以外でも、電機・電子機器業界や精密機器業界がいまや売上高の過半を海外で立てている(図2)1)。複雑化・多機能化については、格別説明を要すまい。自動車に限らず各分野で、ソフトウエアによる電子制御の比重が高まりつつあるのは、その一つの証左といえよう。
1)国際協力銀行、「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」、2009年11月.