日本製造業が誇りとしてきた「品質」が揺らいでいる。厳しさを増した顧客からの要求、グローバル化に伴うきしみ、複雑 化する製品に潜む危うさ─。北米でのリコールに端を発したトヨタ自動車の一連の問題は、日本が守るべき「品質」が新 たな局面に突入したことを示唆している。これからの時代に求められる品質とは何か、我々は何をすべきなのか。製造業を 取り巻く現状を見つめ直し、とるべき方策を提言する。(編集部)
守れ、品質の誇り
目次
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第10回:提言7 品質チェックは前工程から
1つの製品を造るのに必要な技術は複雑に絡み合っている。1つ不具合が発生すると、どこにどう影響するかがつかみにくい。この手立てとして有効なのが、手戻りを減らすために、構想設計段階や要素技術開発といった初期段階で品質を作り込むこと。従来、品質のチェックは、製品全体の基本設計案ができてから実行するのが通常…
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第9回:提言6 設計の整理整頓をせよ
その具体策としてまず考えられるのは、製品のアーキテクチャや技術体系を整理し、すっきりした形に単純化することだ。そのためには製品を機能の単位や要素技術の単位(モジュール)に分け、互いのインタフェースをはっきりさせることが有効。いわゆるモジュラーデザインの第一歩に当たる取り組みだ。
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第8回:提言5 現場の「空気」をしつこく共有せよ
行動様式の明文化は、図5で言えば「仕様書/契約書/設計図」のカバー範囲を拡大することにはつながっても、完全にメーカー側の期待と同じところまで、サプライヤー側の認識レベルを上げることはできない。やはり最後は現場・現物を共有して初めて、品質向上への前向きな議論ができるようになるのである。膝と膝を突き合…
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第7回:提言4 契約社会を逆手に取れ
実は、1つめに挙げた方法は既に、多くのメーカーで実践されている。大手自動車メーカーの海外向け仕様書は年々、厚みを増す傾向にあるようだ。しかし、これは根本的な解決にはならない。たとえ仕様書や設計図を念入りに作ったところで、仕様書や設計図通りの部品しか仕上がらないという点で変わりはないからだ。ならば、ど…
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第6回:提言3 対応の速さで勝負せよ
トヨタ自動車の問題が大きく取り上げられた理由に1つに、不具合発生から対応を公表するまでのタイムラグが長かったことがある。ユーザーの声に速く答えて不満や不安を短時間で解消することは、品質に対する評価を高めることにつながる。製品(物)だけでなく、情報を提供することも大きな要素だ。
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第5回:提言2 組織横断的分析チームを組め
メーカーとユーザーのギャップを埋めるべく、せっかく得たユーザーからの情報をいかに活用するか。ユーザーの声を分析した上で製品の設計や生産のノウハウとして蓄積し、不具合の未然防止や再発防止に生かすことが肝要だ。そこでポイントとなるのが、組織の壁を越えた横断的な取り組みと、基準化に向けた仕組み作りである。
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第4回:提言1 ユーザーの声をすべて「是」とせよ
ユーザーの声を収集することの大切さに気づき、実行に移したメーカーの1つがソニーだ。同社が、ユーザー情報に真摯に耳を傾けることの重要性を再認識したのは、同社製リチウム(Li)イオン2次電池を採用したノートパソコンの発火事故。同社は2006年9月、全世界での自主交換プログラムの実施に踏み切った*1。「電…
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第3回:製品の複雑化・多機能化
グローバル化とともに、製品の複雑化・多機能化は大きな品質リスクだ。「技術革新は、リスクの拡大も伴う。とりわけ電子化の技術レベルは飛躍的に高まっているが、品質検証(の体制や技術)がそれに追いついていない恐れがある」(文化学院理事長の戸田氏)。実際、製品が複雑で多機能になればなるほど、分業化が進んで製品…
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第2回:グローバル化の弊害
日本製品の強さの源泉の1つは、ケイレツに代表されるようなセットメーカーとサプライヤー間の強固な連携にあった。例えば、設計の初期段階から互いに協力し合うデザインインのような深い関係が、設計の意図を理解し情報を共有する上で重要な役割を果たしてきたのである。
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第1回:メーカー責任の拡大
トヨタ自動車のリコール問題は、世界でも大きく報じられた。一連の問題からは、品質を脅かす幾つかの要因が浮かび上がってきた。大別すると次の3つになる。