4兆元(約53兆円)――。

 中国が今後10年間で電力インフラに投入する投資額である。まさに,“ケタ違い”と言える。この巨額の投資計画に,世界中の企業が沸き上がっている。今や,充電インフラや次世代電力網「スマートグリッド」の国際標準活動の場で「中国の参加者が発言すると,全員が一斉に耳を傾ける」(充電インフラ関連の標準化活動に加わる国内関係者)状況にあるという。

 その中国に,トップ交渉から乗り込んだのが米国である。2009年11月,米Barack Obama大統領は中国の胡錦涛国家主席と共同で,「U.S.-China Electric Vehicles Initiative(米中電気自動車イニシアティブ)」を発表した。今後,充電インフラ開発に向けた標準仕様の共同開発や,10数都市での実証実験などを進める。標準仕様の“共同”開発とうたいながらも,既に米国には充電インフラを含めたスマートグリッド向けの標準化の枠組みがある。米国で標準化の作業を取りまとめる米NIST(National Institute of Standards and Technology,国立標準技術研究所)のGeorge Arnold氏は,中国に対して「当然,この枠組みを基に検討していくことになるだろう」と語る。

 一方,日本も負けじと中国市場へ挑んでいる。日本の場合,企業が中心となって動いている。例えば日産自動車は2009年4月,中国の行政部門である工業情報化部と提携して,武漢市で充電インフラのプロジェクトを始めると発表。同年11月14日には,広東省と同様の共同プロジェクトを始めるとした。

 さらに2010年3月には,日産自動車を含む日本企業5社が中心となって「CHAdeMO」を設立した。充電インフラの標準化活動に取り組む。自動車メーカーとしてトヨタ自動車や富士重工業,三菱自動車も加わる。特徴は,国内最大手の電力事業者である東京電力が名を連ねている点にある。中国で,充電インフラの標準化を主導するのは電力事業者。具体的には,中国最大の国有の電力事業者であるState Grid Corp.(国家電網)である。「東京電力は過去に,国家電網に送電技術などを供与した経緯もあり,つながりが深い」(海外電力調査会)。これを生かして,交渉の窓口を引き受けている。

 本来,国内の地域ごとの電力事業が最大の役割である日本の電力会社にとって,他国の充電インフラにかかわることの利点は小さい。だが,東京電力は,急速充電スタンドの開発で,日本の電力系統で使いやすい仕様を自動車メーカーに提案してきた。このため,日本の自動車メーカーの動向とは歩調を合わせたいと考えである。

図:日米は中国市場を目指す(2010年3月23日号の日経エレクトロニクスの特集「充電インフラを握れ」より抜粋
図:日米は中国市場を目指す(2010年3月23日号の日経エレクトロニクスの特集「充電インフラを握れ」より抜粋
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中国は日米の“いいとこ取り”を狙う

 では,肝心の中国自身は,どんな構想を描いているのか。中国の充電インフラの狙いが,2010年5月1日に開幕した上海国際博覧会(上海万博)で浮かび上がってきた。国家電網が万博会場を,充電インフラを含めたスマートグリッドの実験場として活用したのだ。その実験から見て取れる特徴は,日本と米国の良いところを共に取り込もうとする点にあった。

 日本を参考に国家電網が目指すのは,停電を減らすといった電力網の信頼性の向上である。これを中国版スマートグリッドのコンセプトの根幹に置く。このために,断線などを検知した場合に,自動で別経路の電力系統に切り替えるシステムを万博会場に配置した。断線の検知や制御信号の通信には,日本の電力網と同様に光ファイバ回線を利用する。「無線通信に比べてコストは若干かさむが,安定した通信が可能」(国家電網)なためだ。