前回から続く

 Larryの最初の仕事は,メカニカルな構造を持つ微小なミラー・アレイを作ることだった。このミラー・アレイは,Si製のチップ上に金属で被膜した薄いプラスチック板を載せるというもの。Larry自身が編み出したアイデアに基づいていた。彼らは,ニトロセルロースをアンチモンで被膜したミラーをまずは試作して見せた。

変形するミラー・デバイス

 このミラー・アレイは,なかなか複雑な構造だった。まずミラーを可動にするため,プラズマによるエッチングでミラー下部に空間を設ける。そして空間の底部にトランジスタとキャパシタを設置し,静電引力を調整することでミラーがへこむようになっていた。ミラーがこのように変形することで,入射した光を散乱させる仕組みである。

 ミラーが変形する(deform)ことから,Larryたちはこの構造を「DeformableMirror Device(DMD)」と名付けた。当時は,まさかこれが将来のディスプレイ・デバイスの中核技術になるとは,夢にも思っていなかった。

図2 従来のリニア・レギュレータの例
Hornbeck氏は,あふれ出るアイデアをつなぎ止めるために,色付きのメモを書いていた。写真は,1978年にミラー・デバイスの断面構造を描いたメモ。

「プリンターで使えないか?」

 彼らの研究は順調に進んだ。開発を始めてから2年後の1979年には,縦16×横16のミラーを敷き詰めたアレイを試作,そしてその2年後の1981年には,128×128画素のミラー・アレイを試作した。当時はまだ光情報処理のためのデバイスという位置付けだったが,ミラーを制御できることをデモンストレーションするため,各画素をそれぞれへこませたりへこませなかったりすることで,アレイ上に簡単な絵を表示させるといった実演は行っていた。

 そんなある時,Larryは同僚のW. Ed Nelsonからこんな指摘を受けた。

「このDMDだけど,レーザ・プリンター内部でスキャニングする際の光学系に使えないかな」

 確かによく考えてみると,DMDは光の進行方向を自在に変化させることができる。これをスキャニングに応用するという考えはあり得るかもしれない。既存のレーザ型スキャナを置き換えられれば,大きな市場が開けるはずだ。LarryはDMDを新たな用途に適用するということを強く意識していなかったが,同僚のひと言で興味が一気にわいてきた。