世界中で盛り上がり始めた充電インフラ開発の旗振り役は,米Barack Obama政権である。同政権にとって,プラグイン・ハイブリッド車(PHEV)や電気自動車(EV)産業の創出に必要な充電インフラ整備は,欠かせない政策だ。政権の命運を握る「雇用創出」と,エネルギー安全保障にかかわる「脱石油」に,PHEV/EV産業の創出が重要な役割を担うためである。

 政策の責任を負う米Department of Energy(DOE,エネルギー省)長官のSteven Chu氏は,「他国への石油依存度を下げる,消費者の支出を減らす,先端の自動車開発や生産技術で世界をリードする,そして高品質な雇用を確保する」と,PHEV/EVの重要性を訴える。政策の実現に欠かせない充電インフラには,「電力網の高度化が不可欠」(Chu氏)である。このため,スマートグリッドの構築に110億米ドル(約1兆円)規模の資金を投入する。

 加えて,スマートグリッドの構築は,太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入にも役立つ。天候任せで不安定な発電を,スマートグリッドによって平準化できるためである。こうした再生可能エネルギーの導入も,「雇用創出」と「脱石油」に欠かせない。米政府の考えるスマートグリッドとは結局,PHEV/EVの普及と,再生可能エネルギーの導入に必要な設備投資に狙いがある。しかも,PHEV/EVと再生可能エネルギーは共に,「世界中で今後,急激に拡大する市場」(DOE,Deputy Assistant SecretaryのHank Kenchington氏)とみられる。このような発展を遂げる素地となる充電インフラ開発に向け,米国が今,動かない理由はない。

図:米国は充電インフラ前提のスマートグリッドを目指す(2010年3月23日号の日経エレクトロニクスの特集「充電インフラを握れ」より抜粋)
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 この政府の後押しがあり,多くの米国企業が充電インフラの開発に取り組み始めている。中でも目立つのが,新興企業である。第1回で述べたように,充電インフラの産業構造が,新興企業の参入しやすいIT産業と同じ構造に映っているためだ。

電力事業者に売り込め

 その上,米国の電力産業の構造は,新興企業にとってビジネスがしやすいように映る。米国の電力事業者は3000社以上と多いためだ。これらが今後,充電インフラを考慮した電力情報管理システムを導入していく可能性は高い。電力事業者に向けて,新興企業が売り込む余地は大きいのだ。そこで新興企業は,自社の充電管理システムを導入することで,電力事業者の設備投資を減らせることをアピールする。

 そのうちの1社で,イスラエルで日産自動車とともに充電スタンドの設置を進めている米Better Place社は,こう主張する。「200万台のEVを導入すると,新たな発電設備が2345MW分必要となる。実現には,送電用変電所を1基,配電用変電所を10基,変圧器を18台,2158kmの電線を設置する必要がある。投資額は45億8600万米ドル(約4100億円)に達するだろう。我が社の充電制御システムを使えば,287kmの電線の追加で済み,4億7100万米ドル(約420億円)の追加投資で十分だ」(Better Place社, North America, Vice PresidentのJason Wolf氏)。