電気自動車(EV)と次世代電力網「スマートグリッド」――。ともに今,世界各国で激しい開発競争が始まった分野である。この二つの技術分野には密接な関係がある。EVに欠かせない充電インフラの拡充には,双方向の通信を利用したスマートグリッドが必要なことである。EVが普及すれば,電力需給のピーク時間帯などが従来からガラリと変わる。ここで,スマートグリッドの通信網を利用して充電インフラを構築すれば,多数のEVが一斉に充電した場合でも,電力網の負荷に応じて充電量を抑制するといったことが実現できる。

 現在,EVとスマートグリッドの開発には,米中を始めとした各国が巨額の資金を投入し始めている。ならば,両者を橋渡しする充電インフラ開発にも大きな商機がある。そう考えた多くの企業が今,充電インフラ開発に参入し始めた。中でも目立つのが,新興企業である。充電インフラの産業構造が,新興企業の参入しやすいIT産業と同じ構造に映っているためだ。EVを,携帯電話機やパソコンといった通信端末に見立てれば,電力情報の流れとインターネットの情報の流れは同じといえる。IT業界で,米Cisco Systems, Inc.や米Google Inc.が小さな企業からあっという間に巨大企業に成長した過去に,新興企業は自らを重ね合わせる。未来の巨大企業を思い描いて,充電スタンドや住宅内の充電管理に使うスマートメーターなどの開発にこぞって乗り出した。

図:新興企業にとって充電インフラ業界は,IT業界と同じ構図に映る(2010年3月23日号の日経エレクトロニクスの特集「充電インフラを握れ」より抜粋)
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 新興企業が盛り上がる中,巨大企業もいよいよ動き始めた。2010年4月,日産自動車と米General Electric Corp.(GE)が,充電インフラに向けた研究で提携すると発表した。日産自動車は,2012年にフランスRenault S.A.とともに50万台規模でEVの量産計画を発表するなど世界で最もEVの開発に注力する企業の一つ。一方,電力事業に強いGE社は,スマートグリッドに向けた開発において最も積極的な企業の一つである。二つの分野で大きな存在感を放つ両社の共同研究の行く末は,今後の技術開発の潮流に大きな影響を与える可能性がある。

充電だけが狙いではない

 なぜ日産自動車とGE社が手を組んだのか。EVに注力する日産自動車が充電インフラ開発に積極的なのは当然だが,GE社が積極的に関わる利点を見出しにくいように思える。GE社は現在,ランプやセンサなどの部品をサプライヤーに納入する企業の一つに過ぎず,自動車ビジネスに積極的な企業ではない。そんなGE社だが,EVは長年取り組んでいた研究テーマの一つというのだ。「創業者であるThomas EdisonがEVを開発して以来,社内でEVの研究は脈々と続いていた」(GE社, GE Global Research Japan, General ManagerのJuliana Shei氏)という。その上,日産自動車とGE社は,かねて研究者の間で情報交換する関係にあった。その情報交換の一環で2009年半ばごろに,「日産自動車の技術者がニューヨークのGE社の研究所に訪れる機会があった。そこで,EVと充電インフラ技術について一緒にやろうと決まった」(Shei氏)という。日産自動車は,「世界的に大手のGE社と研究することで,いち早くスマートグリッドに向けた技術開発を進める」(日産自動車)好機と考えた。