これまで、モジュラーデザイン活動の具体的な内容を解説してもらった。だが、業務プロセスの改革は、時間の経過とともに“元の木阿弥”になってしまうことも少なくない。そこで最終回となる本稿では、モジュラーデザインを継続するための仕掛けづくりについて紹介してもらう。(日経ものづくり)

 モジュラーデザイン(MD)は、企業が継続的に取り組なければならない活動である。そこで、MDが一時的な活動で終わらないようにするため、関連の取り組みとして、以下の項目を実行する。

(1)トータル志向によるMD効果のキャッシュフロー(C/F)化
 本連載の第1回で、筆者は次のように述べた。「いまや、ミクロ視点の伝統的な原価管理手法は経営にとって害悪にさえなることがある。例えば、2つの部品を共通化するとコストが高い方に統合されるから、部品共通化をすべきではないという見方がある」。ここまで述べてきたMD活動は、単なる部品共通化活動ではなく、「モジュールを基本概念とした、トータル志向による設計・生産プロセス革新活動」であることがお分かりいただけただろう。そこで最後に、MD活動の総仕上げとして、製造原価効果/事務間接費低減効果/非財務効果の3つの観点からMD効果のC/F化を行う。経営にとって、モジュール化は手段であり、あくまで目的は変動費や固定費を下げ、売り上げを伸ばして、差し引きのC/Fを上げることなので、成果をC/Fという分かりやすい形で“見える化”する必要があるのだ。

図1●「工程投資表」
MD活動の製造原価への効果を割り出すために用いる。
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1.製造原価への効果
 MDは、市場や客先の要求と製造の制約とのバランスを取って製品や部品をモジュール化する思想に基づいており、顧客満足と生産性向上の両立を目指す手法である。生産性については、第4回で説明した「設計・製造連携VE」で述べたように、常にそれを意識した活動を行ってきた。これらの活動成果をC/Fとして実現するために、図1に示す「工程投資表」を用いてMD活動後の製造原価を見積もり、現状の投資額を差し引いて製造原価へのMD効果を割り出した上で、実現に向けた活動を行う。

2.事務間接費低減効果
 MD活動を行うと、製品モデルの確立や設計手順書の整備などにより、商品企画/見積仕様書作成の効率化、設計工数の低減、生産準備活動工数の低減、調達・購買業務の削減といった事務間接費の低減が期待できる。これらの効果を具体的に見積もり、C/Fとして刈り取るために、ABC/ABM活動を行う。

 ABC/ABM Activity Based Costing/Activity Based Managementの略。ABCは、活動(作業)ごとに人件費などの間接コストを把握することで、より正確な原価を計算する手法。ABMは、ABCの結果を基に業務改善などを行う管理手法。
図2●MD活動項目による非財務効果のC/F化
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3.非財務効果
 MD活動の項目とそれによって得られる非財務効果およびそれらをC/F効果へ変換するプロセスを図2に示した。

 MD活動による非財務効果は、ある程度定量的に見積もれるので、さらに過去の経験や理論を基に、非財務効果をC/F効果に結び付けるシミュレーション式を作り、見積もったC/F効果を具体的に刈り取る活動を行う。例えば開発期間・納品期間短縮によるC/F効果は、納品期間が長かったために失注した過去の経験から、納品期間と受注件数(売り上げ)の関係についてシミュレーション式を作成する。

図3●上流PLMのありたい姿
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(2)PLMへの展開
 MD活動の成果は、確実に個別の製品に反映しなければならない。そのためには、PLM(Product Lifecycle Management)の構築、特に商品企画/見積もり仕様の決定や設計開発プロセスといった開発の上流部分におけるPLMが有効だ。しかし、世の中にまだ上流PLMの規範的構造がないので、図3に上流PLMの“ありたい姿”を示した。

 下半分の設計I/O(Input/Output)情報は第2回で示した「製品モデル」の構造であり、上半分の設計根拠情報と設計知識は第5回で示した「設計手順書」の構造である。

(3)擦り合わせ型製品のモジュール化手順
 製品そのものを擦り合わせ型からモジュラー型に“技術的に”変えることもモジュール化にとって有効だ。モジュール化とは、製品と部品/部品と部品のインタフェースのルール化/規格化のことだから、インタフェースの安定性を乱す要因を明確にし、その要因を除去する方法を見つけられれば擦り合わせ型製品をモジュラー化できる。インタフェースの安定性を乱す要因は、次の6つである。
1.製品を運転したときに結果的に出てくる振動/騒音、熱などの結果性能
2.限られた空間の中に部品を押し込めるレイアウト要求、または製品の意匠要求
3.外気温、大気圧、天候のような使用環境の安定性
4.使用環境の変化に耐えて機能を発揮する耐環境変動性
5.製品を構成する部品点数
6.製品への要求と部品への要求の連動性

 そこで、擦り合わせ型製品をモジュラー化する方法は、次の6項目になる。