なぜ設計手順書を使うのか

 なぜ設計手順書を用いた設計のモジュール化が必要なのか。その理由は、以下の通りである。

(1)メカ製品のモジュール化
 メカ製品を構成する部品のモジュール化は、部品仕様を決定する設計パラメータをモジュール化してから行う。設計パラメータに手を付けなければ、部品をモジュール化できない。そこで、設計パラメータと部品仕様の関係を“見える化”するために設計手順書を作成し、設計パラメータをモジュール化したら部品仕様もモジュール化できるようにする。モジュラーデザインは部品のモジュール化を実現するために設計パラメータのモジュール化に着目する点が、一般の部品少数化/モジュール化の方法と決定的に異なる点である。見込み生産型の製品はもちろん、個別受注型の製品でも客先要求仕様に応じて設計しないで、すべての客先要求仕様がカバーできるよう事前に設計したモジュールの中から、引き抜いて設計する方法に変わらなければならない。

 設計手順書では、既存の設計資産である特許情報/他社製品データ/品質基準/コストテーブルを適宜参照するので、単に部品少数化を実現できるだけでなく、商品力向上や品質改善、コスト低減、そして結果的に設計期間の短縮が可能になる。ほかにも、新人の即戦力化や技術の伝承、技術力強化、設計期間を含めた総開発期間の短縮が可能になる。

 さらに、設計手順書通りのプログラムを作成すれば“自動設計システム”が出来上がる。設計手順書を持たない企業が多いが、モジュラーデザインのためだけではなく、ものづくりの基本として労力をかけてでも設計手順書を整備する価値がある。

(2)エレキシステムのモジュール化
 エレキシステムを構成する抵抗/コンデンサ/コイル/ICチップ/マイコンなどの電気部品はほとんどが汎用部品なので、電気標準化団体や部品メーカーが基本的な特性値を業界標準化しており、最終製品メーカーは標準化された部品の中から必要な部品を選んで購入している。従って、最終製品メーカーにおける電気部品のモジュール化は、業界標準化されていない外形寸法や基板への取り付け足の長さなどに関する標準化が中心となる。

 しかし、そういった部品単独のモジュール化だけでは効果が小さいので、最終製品メーカーにおける製造工程の効率化や生産性向上を図るという観点でのモジュール化が必要だ。その方法が、図2に示したように、プリント配線基板単位での標準化とエレキシステムのP/Fの標準化である。このようなアプローチによって、製造工程の効率化や生産性向上を実現できる上、これまでよりも少ない部品種類数で多くの製品ミックスを作れるようになり、取り逃がしていた顧客を根こそぎ取り込む品ぞろえが可能になる。

(3)ソフトウエアのモジュール化
 ソフトウエアは、ハードウエアと異なり、論理だけから構成されているので、もともとモジュール化しやすい。しかしソフトウエアは自由度が高いので、その設計の方法は設計者個人のノウハウに依存していることが多く、組織としてうまく管理できている企業は少ない。ソフトウエアの標準化のポイントは、次の3点である。

  • ソフトが構造化されていること。
  • メカ/エレキ/ソフトのインタフェースが“見える化”されていること。
  • メカ/エレキ/ソフトについてそれぞれの設計者が共通の概念や用語でコミュニケーションを取れる環境をつくること。

 以上の条件を満たす手段としてDSMが有効であると筆者は考え、図3の手順を示した。ソフトウエアや内蔵データの部分だけではなく、入出力装置や入出力回路までも含めたソフトウエア制御システム全体としての整合性をDSMで取る点が特徴である。

 筆者はかつて数千行の機械制御ソフトウエアをDSMで品質検証したことがある。そのソフトウエアはこれまで客先で何回かバグが発生し、その都度対策してきたので、もはやバグはないだろうと思われていたが、なんと6件もの潜伏バグを発見した。この事例はDSMの有効性を実証していると筆者は考えているが、近年の携帯電話機などではソフトウエアが数百万行に達するのだから、「DSMでマトリックスを作ってもどうにもならないのでは?」との懸念があるかもしれない。しかし設計者は、DSMを作ろうと作るまいと間違いなくDSM的な思考で設計しているはずである。問題は、マトリックスが巨大になるので見晴らしが悪いことである。そこで図3の作業を可能とするCASE(Computer Aided Software Engineering)ツールが求められている。