前回より続く
三洋電機が開発したAl合金製外装缶を用いたLiイオン2次電池である。スチール製外装缶を用いていた従来品に比べて,電池重量は3割程度軽くなる。現在,三洋電機ではAl合金製外装缶を用いたLiイオン2次電池を9種類生産している。(写真:三洋電機)

 阪神淡路大震災の混乱覚めやらぬ1995年2月上旬,雨堤徹氏は広島にあるPHS(パーソナル・ハンディホン・システム)電話機メーカに呼び出される。雨堤氏が開発したAl外装缶製Liイオン2次電池をぜひ採用したいという。拝み倒され,雨堤氏はこの依頼を受ける。納期まで3カ月。とにかく開発を急がなければ,間に合わない。

 広島にあるPHS(パーソナル・ハンディホン・システム)電話機メーカから連絡が入った。PHS電話機の設計変更が完了したという注1)。雨堤氏が,広島に呼び出されてから3日たった,月曜日のことである。これを受け,雨堤氏はすぐに電池の設計変更に着手,水曜日までにはほぼ作業を終えた。

注1)その年(1995年)の7月1日からPHS事業者がサービスを開始することが決まっていたため,各社ともPHS電話機の開発を急いでいた。

 これからが正念場。当初計画していた海外携帯電話機メーカ向けよりも半年早く,電池の量産を始めなければならない。納期まで3カ月もない。一方で部品メーカは,海外メーカ向け電池の量産を目指し,すでに走り始めている。それを設計変更してもらわなければならない。まずそれが,第1の関門である。

 いつものように部品メーカに押し掛ける。とにかく時間がない。金型を試作しているヒマもない。いきなり本型でいくしかないだろう。コストはかかるが,1 度に数種類の金型を作ってもらい,1番いいものを本型として使おう注2)。「なんとかお願いします」。雨堤氏は1度食らいついたら引き下がらない。それを先方もよく知っている。渋るかと思いきや,要求をあっさりのんでくれた。

注2)実際には4~5セットのパンチとダイを作ってもらった。

1分,1秒でも早く

 数週間後,部品メーカから連絡が入る。「金型ができました」。

 「よし,すぐ行こう」。雨堤氏の気持ちは,はや部品メーカへと飛んでいる。1分でも1秒でもいいから評価期間を短くしたい。そのためには,まず現場に行かなくては。プレス加工した部品の外形寸法をチェックし,設計とのズレがあればすぐその場で金型を修正してもらうのだ。