前回より続く

 雨堤氏はこれまでにも増して精力的に動き始める。「製品化という具体的な目標が決まった。まずはAl合金製の角型外装缶を手配することから始めよう」。

 さっそく雨堤氏はLi2次電池の角型外装缶を以前試作してくれたインパクト・プレス・メーカに電話をする。「今度はLiイオン2次電池という新しい電池を開発することになりました。ついては,Al合金で外装缶をまた作ってほしいのですが」。

 ところが,今度はなかなか要求に応じてくれない。以前は角型Li2次電池の試作品を作ってくれたのに,一体どうしたというのだ。

 「本当にAl合金で角型電池を作るのですか。試作だけではないのですか。本当に製品にする気があるんですか」。どうやら先方は,電池の製品化に対して疑心暗鬼になっているようだ。角型Li2次電池の開発を途中でやめてしまったことが響いているのだろうか。「今度は本気です。本当です」。しかし,いくら説明してもラチが開かない。

 その後,いくつかのメーカに当たったが,外装缶を作ってくれるメーカはなかなか見つからない。「あ,いいですよ。出来上がり次第,持って行きます」と答えながら,待てど暮らせどサンプルを持ってこないメーカもあった。

 雨堤氏は東奔西走する。そして,ようやく外装缶を試作してくれるメーカを探し出した。ホッと一息。でも,イヤな予感がする。

またもや拒否

 この不安が早々に現実のものとなる。外装缶があっても,それだけで角型電池ができるわけではない。外装缶のフタ(封口体)が必要だ(図3)。ただし,厄介なことがある。Liイオン2次電池のフタには,異常時に発生したガスを放出する弁を付けなければならない。このため,フタにはあらかじめ穴を開けておく必要があるのだ。

図3 Al合金製の角型外装缶とフタ
図3 Al合金製の角型外装缶とフタ
中央に穴の開いているフタを外装缶にはめ込んで,レーザ溶接で一体化する。Liイオン2次電池のフタの場合,穴の周辺部は薄く,それ以外の部分は厚くする必要があった。(写真:本社映像部)

 まずは,厚さが一様なAl合金板を用い,中央に穴が開いているフタを試作した。そして,穴にリベットやガスケットを挿入し,フタと一体化するために圧力を加えてカシメてみる。すると,穴周辺に加えた圧力によってフタの中央部の縁が外側に膨らみ,そこだけ出っ張ってしまう。これでは外装缶にピッタリはまらなくなる。

 そこで思い付いたのが「コイニング加工」という方法だった。1枚の合金板の厚みを部分ごとに変えるのだ。雨堤氏はこの加工方法を,以前見学した工場で見たことを覚えていたのである。

 電池のフタの場合,穴の周辺だけ部分的に薄く,他の部分を厚くすれば良いのではないか。そうすれば穴周辺に圧力を加えても,フタの外縁が膨らむことはない。「これでいける」。雨堤氏は加工メーカにすぐさま電話した。

 ところが返事はノー。「Cu板なら対応できるが,Al合金板は加工が難しい。だからやりたくない」というわけだ。心当たりのメーカに何件か当たったが,やはり芳しい返事は得られなかった。当たり前だが,フタがなければ電池はできない。

押して押して押しまくる

 「こうなったら最後の手段だ」。雨堤氏は休日にもかかわらず,最初に電話した加工メーカに押しかけた。しかもまだ昼前だ。門を叩く。「なんとかしてくれませんか。お願いします」。

 「お願い」というよりも「説得」だった。出てきた相手は4人。雨堤氏が話し始めると「できません」の一点張り。いささかも引く気配を見せない。それどころか,逆に雨堤氏が丸め込まれそうになる。おっと,あぶない。ここで引き下がっては身もフタもない。いや,身はあるけどフタがないのか。いやいや,そんなことはどうでもいい。「お願いです。難しいのはわかります。でも,そこをなんとか,なんとかして作ってくれませんか」。「いや無理ですね」。「そこをなんとか」。「絶対無理だよ」。「無理は承知でやってみるだけでも…」。