COLLEGE 製造業の“本当”を探求
 

最終回:MINERVAの目覚め(下)

宇野 麻由子
2010/04/22 00:00
出典:日経エレクトロニクス、2007年2月12日号 、pp.130-131 (記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります)
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前回から続く)
M-Vロケット5号機
小惑星探査機「はやぶさ」の打ち上げに使われたロケット「M-Vロケット5号機」の模型

 打ち上げから2年余り。MINERVAの目覚めは刻一刻と迫ってきた。 2005年9月12日。はやぶさは,目的地の小惑星イトカワ近傍にたどり着く。状況は芳しくなかった。到着に先立つ2005年7月,はやぶさが搭載する3 基の姿勢制御装置のうち1基が故障した。原因は分からない。イトカワを周囲から観測していた10月。さらにもう1基の姿勢制御装置も動かなくなった。

目を覚ませ,MINERVA

 11月4日。はやぶさからMINERVAを放出する日が来た。齋藤は,相模原の管制室に駆けつける。モニター上の数字が表すはやぶさの動きを,固唾をのんで見守る。齋藤が気に掛けていたのは水晶発振器の発振周波数だった。宇宙空間の苛烈な環境によりこれがズレると,通信できない。

 MINERVAに電源が入った。30秒に一度ほど,齋藤の目の前のモニターの画面は更新されていく。「よかった,異常なしだ」。MINERVAは自分の働くべき場所で目を覚ましたのである。ただし,この日の投下は延期された。姿勢制御装置の故障で,はやぶさの姿勢制御が困難になったからだ。

 2005年11月12日。MINERVA投下再挑戦の日である。齋藤は再度,管制室を訪れた。今日はMINERVAが主役だった。誰もがモニター上で,はやぶさとMINERVAの動きを追った。はやぶさが小惑星に接近する。高度50m。「よし,今だ」。はやぶさ計画の全体を統轄するプロジェクトマネージャーの川口淳一郎は,MINERVA分離の命令を下した。管制卓の担当者が,はやぶさに向けて指令を送信する。

 齋藤は,分離機構がうまく動くのか最後まで自信が持てなかった。無重量実験で分離が思うようにいかず,軽量化と強度の両立が困難だったことから,分離機構の開発は最後の最後までもめた。万全を期したつもりでも,何か見落としはなかったか。

 命令を送って約32分後の15時40分,予定より15秒遅れてモニターに分離の表示が出た。分離機構に取り付けたセンサの応答である。よかった,分離できた――齋藤は安堵した。

 しかし,同時に大問題が明らかになった。はやぶさからの信号で,分離時のはやぶさの高度は50mではなく200mほどだったことが分かった。はやぶさはイトカワに近づきすぎたと判断し,上昇に転じていたらしい。上昇速度は15cm/秒。イトカワからの脱出速度に匹敵する。管制室にいた一同は,着陸の失敗を予感した。

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