2005年11月13日の夜。自宅にいた齋藤浩明は,電子メールに添付された写真を見て喜びの声を上げた。白黒の画像に映っているのは,数本の白い電力計装線が走る,太陽電池パネルだった。背景は真っ黒。漆黒の宇宙空間である。
小惑星探査用小型ロボットの開発
目次
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最終回:MINERVAの目覚め(下)
打ち上げから2年余り。MINERVAの目覚めは刻一刻と迫ってきた。 2005年9月12日。はやぶさは,目的地の小惑星イトカワ近傍にたどり着く。状況は芳しくなかった。到着に先立つ2005年7月,はやぶさが搭載する3 基の姿勢制御装置のうち1基が故障した。原因は分からない。イトカワを周囲から観測してい…
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第7回:MINERVAの目覚め(上)
2000年12月。アイ・エイチ・アイ・エアロスペースの齋藤浩明に残された時間はわずかだった。つい数週間前,米National Aeronautics and Space Administration(NASA)は,小惑星探査機「はやぶさ」に搭載する予定だった探査ロボット「MUSES-CN」の開発を…
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第6回:部品と頭は使いよう(下)
EMがほぼ完成した2000年春。足立忠司は電車の中で考え込んでいた。足立は,宇宙用の太陽電池を手掛ける米EMCORE Corp.の代理店である商社に向かっていた。この日足立は,変換効率が26%と高いEMCORE社の太陽電池パネルを泣く泣く発注するところだった。それでもまだ,揺れる電車の中で思いも揺…
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第5回:部品と頭は使いよう(上)
「もしもし。今度出るノート・パソコンの『PCG-C1』について,聞きたいことがあるんですが」。「はい,どのようなことでしょうか」。「内蔵カメラのレンズなんですけど,材質はガラス,それともプラスチックですか。それと,インタフェースがどうなってるのか知りたいんですけど」
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第4回:灼熱・極寒・宇宙線(下)
1998年春。電源やモータ関係の展示会「TECHNO-FRONTIER WEEK 98」をうろつき回る男がいた。アイ・エイチ・アイ・エアロスペースの齋藤浩明である。齋藤が向き合ったのは,同僚の足立が格闘した無重量実験装置に勝るとも劣らない難題だった。ギリギリの予算,限られた容積と重量の枠内で,MI…
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第3回:灼熱・極寒・宇宙線(上)
1回94万5000円。時間はたった4.5秒。利用時に一切制約を課さないとはいえ,岐阜県土岐市にある落下塔施設,日本無重量総合研究所が提示する値段は,「MINERVA」の開発陣にとって法外だった。
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第2回:前例なし,予算なし,重量制限あり(下)
はやぶさは,世界で初めて小惑星の土壌試料採取に成功することを目指している。米国を中心に火星など惑星の探査は盛んだったが,小惑星から試料を持ち帰った例はまだなかった。どうせなら搭載する探査ロボットも日本で作りたい。
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第1回:前例なし,予算なし,重量制限あり(上)
2005年11月13日の夜。自宅にいた齋藤浩明は,電子メールに添付された写真を見て喜びの声を上げた。白黒の画像に映っているのは,数本の白い電力計装線が走る,太陽電池パネルだった。背景は真っ黒。漆黒の宇宙空間である。