前回から続く)

 VE(Value Engineering)という,かくも素晴らしきコンセプトの手法を開発したのはLawrence D. Miles氏だ。そのコンセプトは,「機能を達成するには多くの方法がある。それを発想し,(規則などの)障害を乗り越えて,ライフサイクルにおいて最もミニマムなコストのものを選択する」というものだった。

 これに基づき,まず,米国で多くの技術者が具体的に実行すべき方法を作り上げた。日本でも,VE導入の立役者である産業能率短期大学(現・産業能率大学)の故・玉井正寿教授を中心に開発・研究が進んだ。1965年には,日本バリュー・エンジニアリング協会が設立され,VEの発展に重要な役割を果たしてきた。

 こうしてVEは,今では完成形に近い技法として出来上がった。しかし実務的には,使いこなせていない部分や陥りがちな「落とし穴」などさまざまな問題がある。なぜ,これらの問題が未解決なのか。答えは簡単だ。連載の第1回で指摘した通り,実践経験が極めて乏しく論理中心になっているからである。事実,理論だけでは,現場で初めて出くわす問題に対応するのは難しい。現場の問題の解決には何より,現場の経験が必要なのだ。

 VEの本質と設計の本質はほぼ同意である。「設計が世の中から消えた」といわれるのは,(1)物を機能で考えない,(2)創造しない,(3)目標コストや使用環境といった制約条件をきちんと考慮しない,からだ。加えて,品質保証の概念が薄らぎつつある。逆にこれらを克服し,VEの本質を実践すれば,設計の出力がさらに増すことは間違いない。

VEの定義に込められた意図

 そこで,あらためて「VEの定義」と「VEの5原則」を挙げておく*1

*1 VEのとらわれ方は運用によって異なる。それ故,VEの本質がなかなか実践されない。

 まず,VEの定義。日本バリュー・エンジニアリング協会によれば,「最低のライフサイクル・コストで必要な機能を確実に達成するために,製品とかサービスの機能的研究に注ぐ組織的努力である」(図4)。ここで,4点補足しよう。

図4●VEの定義とVEの5原則

 第1は,「必要な機能を確実に達成する」の真意。ここでは単に機能だけではなく,制約条件やクライテリアなどの各種条件を含める。

 第2は,「製品とかサービス」の領域。製品はいうまでもないが,サービスについてはシステムや物流などの純然たるサービスに加え,コストの発生するすべての仕組みが当てはまる。

 第3は,「機能的研究」の仕方。基本的には,後述するVEの5原則の1つである機能本位の原則に従って実行する。加えて,(1)アプローチのステップを機能的に連鎖させる,(2)各ステップの出力が不足する場合にはさらに上位のステップにさかのぼって見直しを図る,ことを推奨している。

 最後は,「組織的努力」の意味。これは2つあり,1つは,チームで努力すること。もう1つは,チームを取り巻く組織,さらには企業が積極的に支援することである。これは,我がVEの師,産業能率大学の土屋裕名誉教授から学んだことだ。

 次に,VEの5原則。具体的には,(1)使用者優先の原則,(2)機能本位の原則,(3)創造による変更の原則,(4)チームデザインの原則,(5)価値向上の原則,である(図4)

 以上を踏まえた上で,VEの本質を実践するための極意をお教えしよう。VEの実践経験において一日の長がある者の務めとして。