前回から続く)

 前回に紹介した仕様変更の問題に戻ります。プロジェクトの初期段階では見えていなかった課題が途中で発生し,変更が入ることはよくあります。ずさんなプロジェクト計画による安易な変更は論外ですが,一度作成した計画は絶対に変更しないという姿勢は硬直的すぎます。プロジェクトを遂行するためには柔軟性が求められます。

 ただし,変更が必要になった場合,状況の変化を的確にとらえるために,主要な関係者の調整が極めて重要になります。このプロジェクトの責任は発注している顧客側にありますが,受注側にもプロジェクトを成功させるための責任があります。

 プロジェクト全体で,ビジネス性の観点から何が最重要なのかを明確にしなければなりません。なぜその仕様変更が大切なのか,納期厳守は必須なのか,ともかく納期を優先し,後で仕様を拡張することは可能か,といったことを発注側は明確にすべきです。受注側も,変更による技術的な課題の有無,要員と開発コスト増加などの影響を,納期を延ばせないときも含めて整理する必要があります。

 大きな仕様変更は影響範囲が広く,協議すべき事項が増えるので,発注側と受注側がお互いにコミュニケーションを取らなければうまくいきません。図2のように通常,まず「ヒアリング/インタビュー」で相手の考えを知り,それを基に「ディスカッション」を行い,円滑に合意できない場合は「ネゴシエーション」で双方が合意するといった経過をたどります。その後,合意した内容を正式な手続きとして文書化する「ドキュメンテーション」を行い,合意した内容を関係者に「プレゼンテーション」で周知するというようにコミュニケーション力を展開すれば,仕様変更のサイクルがいったん完了すると考えてよいでしょう。プロジェクト・マネジャーやリーダーは,このようにプロジェクトを進める力量が不可欠になります。

図2●コミュニケーション力の展開の手順
図2●コミュニケーション力の展開の手順
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プロジェクト・マネジメントの四つの局面

 プロジェクトには,立ち上げ,計画,実行・コントロール,終結の四つの局面があります。それぞれについては後で詳しく説明しますが,どのようなプロジェクトであっても,この四つの局面があるのです。開発する製品が電子機器でも,工作機械や船舶でも,ビルディングや橋,情報システムであっても,あるいは見込み生産型でも受注生産型製品でも,プロジェクト・マネジメントの本質は同じです。

 日本の多くの企業における仕事の進め方そのものが,プロジェクト・マネジメントといえます。しかし,日本企業の現場レベルで見ると,方法論として確立したプロジェクト・マネジメントに取り組み始めたのは2000年ごろからです注3)

注3) 建設や土木,プラント業界などでは,プロジェクト・マネジメントの方法論をいち早く導入しました。先進企業は,1970年代から実践し始めたといわれています。

 代表的な方法論は,PMBOK(Project Management Body of Knowledge)や,P2M(Project & Program Management)です。これらは,語句の表現などで多少の差異があるものの,本質的には変わりません。

†PMBOK(Project Management Body of Knowledge)=米PMI(Project Management Institute)が策定したプロジェクト・マネジメントの知識体系。1987年にその前身が出され,1996年の改訂版が国際的に普及しました。最新は2004年版。
†P2M(Project & Program Management)=日本で作られたプロジェクト・マネジメントの標準ガイド。経済産業省が,外郭団体であるエンジニアリング振興協会に開発を委託し,同協会が設置したPM導入開発委員会が2001年11月に発表しました。