日本の製造業が転機を迎えている。自動車や電機を中心とした輸出依存の構造にかげりが見えたからだ。もちろん,輸出自体は否定できず,人口が減少に転じた日本にとって,世界は今までと同様,重要な市場であることに変わりはない。ただし,従来のままでは,明るい展望は描けない。今後10年をかけて国内市場を喚起し,さらに海外市場に打って出ていける産業を「ものづくり発」で創出する必要がある。その一つの産業として有力である「農業」が,日本を支える大きな産業になり得るのか、そのためにはどのような取り組みが必要なのかを提言としてまとめた。
連載
ものづくり十年の計・農業,進む植物工場
目次
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第5回:既成概念に固執せず
IT導入に取り組む新福青果
早朝6時半。宮崎県都城市にある新福青果の朝は早い。農場で働く作業者が次々と事務所の前に集まり,準備を進めていく。その中で,他の農場では見られない,手のひらサイズの白い装置を,作業者が身に着ける。この装置は,作業者が始業から終業までどのように移動したのか,つまり各作業者について時系列の位置情報をGPS…
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第4回:栽培情報は貴重な資産
しかし,この重要極まりない環境条件と生育情報の関係が,日本には情報としてあまり蓄積されないという事態が今,起こっている。それは,多くの大規模な植物工場で導入している環境制御システムが,施設園芸が盛んなオランダのメーカーPriva社のものだからだ。同社は独自ネットワークでこれらの制御装置を結んでおり,…
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第3回:農業の工場化は進む
小規模農地で競争力を強化するために最も大切なことは,消費者ニーズをきちんと把握し,売れる時に売れる体制を整えること。そこには,製品企画や販売手法,品質管理などにおける工業,商業のノウハウを適用できる。さらに,農作物の状態と生育環境の相関関係に基づいた環境制御技術を確立することも不可欠だ。
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第2回:「儲かる農業」の実現に向けて
「日本の農業を活性化するには,マーケットを国内だけではなく世界にまで広げて考える必要がある」。そう語るのは,東京大学大学院農学生命科学研究科農業・資源経済学専攻経済学研究室教授の本間正義氏だ。同氏は日本の農業が向かうべき方向として農地の大規模化だけでなく,極論すれば作物1本ずつの生育条件をきめ細かく…
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第1回:“ものづくり”として見る農業の可能性
財務省の貿易統計によると,2008年の食料品(魚介類,肉類,穀物,野菜,果実)の輸入額は6兆2118億円。輸出額は4033億円しかないので,約 5兆8000億円も輸入が輸出を上回っている。この金額は,国内市場の規模と比べてどの程度の大きさなのだろうか。