前回から続く)

 鼻息を荒くするエレクトロニクス・メーカーの取り組みを見ていくと,共通の狙いが浮かび上がってくる。これから急速に進みそうな「情報化(デジタル化)」にチャンスがあるとの思いである。「さまざまな産業が電子技術によって情報化を遂げてきた中で,医療・健康産業は最も変化が遅れていた」(複数の医療機器メーカー)という状況に,大きな市場があるとみているのだ注1)

 医療・健康の情報化は前述した「ITによる医療の構造改革」という施策によって,まさに今,政府が後押ししようとする内容にほかならない(図5)。例えば健康分野では,家庭で測定した個人の健康データを体系的に管理して病気の予防に生かすための基盤づくりを目指す。医療分野では,電子カルテや遠隔医療などを普及させることで,病院と診療所,あるいは家庭との連携を図り,効率の良い医療体制の構築を推し進める。ここに,デジタル家電やクルマに次ぐ市場を探すエレクトロニクス・メーカーとって,絶好のチャンスが訪れる注2)。松下電器産業は「薄型テレビに続く,次の事業の柱の一つとしてヘルスケア事業を位置付けている」(同社 本社R&D部門 ヘルスケアシステム開発室 室長の南公男氏)とし,ヘルスケアシステム開発室を2006年4月に設立した。

注1) 2006年6月,ストレージ機器メーカーのEMCジャパンとインテルは「医療情報電子化ソリューション普及で協力する」と発表した。両社は従来から協力関係を持ち,今回新たな技術を開発したわけではない。発表の目的として「両社共に,医療の情報化にビジネス拡大のチャンスがあるとみているため,医療という分野に焦点を当ててアピールしたいという思惑が一致した」(EMCジャパン)と説明する。

注2) ある医療機器メーカーは「医療の情報化に伴って創出される市場規模は年間600億~770億円」と推測する。ただし,健康分野の情報化も含め,どの程度の市場がつくり出されるかは定かではないというのが大方の見方である。

図5 政府が後押しする具体的内容<br>内閣府のIT戦略本部が推し進める「ITによる医療の構造改革」の内容は,大きく(1)医療・健康分野の情報化,(2)健康情報を活用した予防医療の支援,(3)レセプトの完全オンライン化,(4)遠隔医療などによる医療機関間での連携強化,の4点である。
図5 政府が後押しする具体的内容
内閣府のIT戦略本部が推し進める「ITによる医療の構造改革」の内容は,大きく(1)医療・健康分野の情報化,(2)健康情報を活用した予防医療の支援,(3)レセプトの完全オンライン化,(4)遠隔医療などによる医療機関間での連携強化,の4点である。
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 実際,医療・健康分野における情報化は始まったばかりであり,本番はこれからだ。例えば,「ITによる医療の構造改革」によって2011年当初までに完全オンライン化の方針が掲げられたレセプト。2005年の時点でオンライン化を実現している病院は全体の約10%,診療所では約4%にとどまる(図 6)。これをあとわずか数年で100%にしようというのである注3)。こうした急激な変化があちこちで始まろうとしている。

注3) レセプトのオンライン化によって病院や診療所にネットワーク環境が整うことをキッカケに,施設間連携が加速するとの見方が多い。

図6 レセプトの完全オンライン化が進む<br>政府は,2011年当初までにレセプトの完全オンライン化の方針を掲げる。2005年時点におけるオンライン化の割合は,病院で10%,診療所で4%にとどまる。(図:グラフはNECの資料を基に本誌が作成)
図6 レセプトの完全オンライン化が進む
政府は,2011年当初までにレセプトの完全オンライン化の方針を掲げる。2005年時点におけるオンライン化の割合は,病院で10%,診療所で4%にとどまる。(図:グラフはNECの資料を基に本誌が作成)
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